『サクラクエスト』レビュー|「町おこし」の物語、でも見るべきところはそこではない?

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富山県南砺市に本社を置くP.A.WORKSには、「お仕事シリーズ」で括られる作品群が存在する。

2011年制作の『花咲くいろは』がその嚆矢で、2022年現在、該当するのは次の4つの作品だ。

「お仕事シリーズ」
  1. 『花咲くいろは』(2011年)
  2. 『SHIROBAKO』(2014年)
  3. 『サクラクエスト』(2017年)
  4. 『白い砂のアクアトープ』(2021年)

本作『サクラクエスト』は、シリーズ3作目に当たる。タイトルに「クエスト」という言葉が使われているが、冒険活劇でなければ、探求譚でもない。ファンタジーですらなく、設定は観客である我々が生きる現実とほぼ変わらないものとなっている。

それでもなお「クエスト」としたのは、「吟遊詩人が語る英雄譚のような構造」を作品に持ち込みたかったからだろう。劇中では、過疎に悩む田舎町を舞台にした物語としては不釣り合いとも思える異邦人が、語り部の役割を担っている。

ただ、この構造自体が本作において効果的だったかというと、残念ながら私にはそうは感じられなかった。あってもなくても構わない、というのが正直なところで、タイトルに採用するほどのものでもなかったように思う。視聴開始当初から感じた違和感は、結局最後まで消えることがなかった。

5人の若い女性による「町おこし」

本作の幹に当たるのは、架空の田舎町・間野山の町おこしだ。5人の若い女性が、これに取り組む。

主人公木春由乃は、東京で一人暮らしをしている20歳の短大生。卒業を間近に控えているが就職活動は難航しており、内定は一つももらえていない。

それでも由乃は「普通」を嫌い、生まれ育った田舎に帰ることを拒絶する。そんな彼女の元に届くのが、アルバイトで登録していた派遣事務所からの依頼だ。

「間野山市にあるミニ独立国『チュパカブラ王国』の国王をやってほしい」

というのが、その内容である。

「ミニ独立国」というのは、あまり聞き慣れない単語かもしれない。日本国内において、地域振興や自然保護活動を目的として立ち上げられた架空の国家のことで、1980年代にブームとなった。「独立国」を名乗ってはいるものの、その設立目的からも明らかなように、実際に日本からの分離独立を求めているわけではない。それは本作の「チュパカブラ王国」も同様で、「国王」や「大臣」という体裁こそ取っているものの、実態は地域振興を目的とした一種のテーマパークとなっている。

「国王」の仕事を一日警察署長のようなものだと解釈して、由乃は了承する。だが間野山に到着してから判明した事実は、任期一年の観光大使だった。初めはまったく気乗りのしない由乃だったが、考えを改め、間野山観光協会職員の四ノ宮しおり、間野山出身で売れない女優だった緑川真希、間野山商店会会長の孫娘で引きこもり気味の織部凛々子、東京から間野山に移住してきたWEBデザイナー香月早苗とともに、「チュパカブラ王国」の国王として間野山を盛り上げる活動に身を投じていく。

「町おこし」自体は、決して目新しい題材ではない。地方の衰退はもうずいぶん前から問題視されているし、「地方創生」というスローガンがもてはやされた時代もあった。本作における田舎町の描かれ方も、旧来のイメージを覆すものとはなっていない。廃れた田舎町を象徴する映像は「シャッター商店街」だし、当事者であるはずの住民たちは衰退していく街の状況に無気力・無関心だ。よそ者による「町おこし」にも、冷ややかな目が向けられる。

由乃たちの活動も、地道なものが多い。テレビ番組で特集される、というエピソードが存在はするものの、「町おこし」の活動としてはオーソドックスなものが多く、「画期的な方法で、間野山の状況を劇的に改善させる」というところには至らない。

もっとも、これ自体はリアリティと捉えることもできるだろう。「地域振興」や「町おこし」に特効薬がないことは周知のとおりだし、「外からやってきた社会人経験のない20歳の女性が、地域の抱える長年の課題をあっという間に解決する」というのも、あまりにご都合主義が過ぎる。

ただ一方で、この「派手さのなさ」に物足りなさを感じる人がいてもおかしくない。『サクラクエスト』がアニメである以上、エンターテインメント性は求められるからだ。由乃たちの活動は、良く言えば地に足が付いているが、悪く言えば地味でもある。

ここをどう捉えるかで、本作の評価は分かれるかもしれない。「派手さのなさ」に注目するなら、退屈な作品ということにもなるだろう。

『サクラクエスト』で本当に見るべきところ

個人的には、本作を決して退屈な作品だとは思わなかった。

というのも、本作の本当に見るべきところは「町おこし」ではないと思ったからだ。

本作で注目すべきなのは、「町おこし」を通して変わった5人の若い女性たちの意識だ。「人生観」と言ってもいいのかもしれない。

「普通」を嫌い、東京への強いこだわりを持っていた由乃と同じように、他の4人もそれぞれに抱えているものがある。

緑川真希と香月早苗は、5人の中ではやや年長だ。東京での就業経験もある。

間野山出身で東京の小劇団に所属していた真希は、女優として芽が出ず故郷に戻ってきている。「夢破れた者たちが戻る場所」というのは、地方の持つ一つの顔でもあるだろう。特に物語序盤の、間野山に戻ったばかりの真希からは、敗者の空気が漂っている。「好きなだけじゃ行き詰まる」というのは、自らの挫折に基づいているだけに重みがある。

早苗は東京からの移住者だ。間野山にルーツを持たないという点で、5人の中で唯一彼女は由乃と共通している。由乃との違いは、早苗の移住が自ら望んだものである、という点だ。だがその決断は非常に安易なものであり、覚悟をもって間野山にやってきた別の移住者たちの前に立たされたとき、その卑小さが露わになる。

四ノ宮しおりと織部凛々子は、間野山生まれ、間野山育ちで、今も間野山に在住している。2人は幼馴染でもある。

しおりは間野山観光協会の職員であり、この先も間野山で生きていくことを当然と考えている。彼女は常に、間野山に肯定的だ。だがそれには、「自分の生まれ育った場所だから」という以上の理由がない。なぜ自分は間野山が好きなのか。由乃たちと行動を共にすることで、見つめ直していく。

無職で引きこもり気味の凛々子には、「チュパカブラ王国」に否定的な間野山商店会会長・織部千登勢の孫娘という側面もある。由乃たちには厳しい千登勢だが、凛々子に対する態度は成人女性に対するものとしては少々過保護にも映る。凛々子の問題は、束縛からの解放だ。そこには千登勢の保護だけでなく、自らの性格も当てはまる。

5人はそれぞれ、1年間の「町おこし」活動を通じて自らの人生観を変化させていく。丁寧に描かれたその成長の過程こそが、本作一番の魅力だ。最終話まで見終えた後の気分は、清々しい。

「町おこし」にも通じる態度

5人の変化の過程は、「町おこし」とも通底している。「自らを見つめ直す態度」がそうだ。由乃たちの変化は、特別な経験を得て新しい自分に生まれ変わる、というものではない。元々自分たちが持っていたものを見つめ直すことによって、自分という人間を再確認し、新しい道へ進んでいく。

ここでもやはり地に足は付いていた、と言えるだろう。そうしてそれは、彼女たちが取り組んだ「町おこし」も同じだ。間野山を盛り上げるために由乃たちが行ったことは、新しい何かを持ち込むことではない。元々間野山が持っていたもの、そのポテンシャルを最大限活用することで、「町おこし」を実現しようとしている。

そのために必要なのが、間野山という町をよく知ること、すなわち自らを見つめ直す態度だ。彼女たちの活動は、そこに住む人々ですら忘れていた町の魅力や伝統を思い起こさせてくれる。

元教授が見せた「移住者」としての覚悟

5人に影響を与えた出来事や人物は多く存在するが、特に印象に残ったのは、20年前に間野山へ移り住んだ元大学教授・鈴原だった。文化人類学を専門とする鈴原は間野山を研究の対象としており、間野山に骨を埋める覚悟で移り住んでいる。

鈴原の言葉や行動には、衰退する地方の現実に対して真正面から向き合ったものが多い。それはすなわち、本作の題材に真正面から向き合っている、とも言えるだろう。過疎の対策として、町の中心部への集団移住を提案した早苗に対して「コミュニティの解体は、文化の解体につながる」と返したところなどに、深い思考の跡が感じられる。

鈴原がその身をもって示してくれるのは、地方移住者の姿勢と覚悟だ。その生きざまは、同じ移住者でありながら腰掛け気分の抜けなかった早苗に強い印象を残す。「移住者」もまた、地方の直面する課題の一つだ。その意味で、本作ならではのエピソードだったと言えるだろう。

サクラクエスト

放送2017年
話数全25話
制作P.A.WORKS
監督増井壮一
シリーズ構成横谷昌宏
キャスト七瀬彩夏
上田麗奈
安済知佳
田中ちえ美
小松未可子
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この記事を書いた人

アニメとサッカーを見るのが好き。
累計視聴数は400本を超えていて、今も増え続けています。

作品を見て、感じたこと、考えたことを書いています。