『夏目友人帳』感想・レビュー|「癒し」の先にある「切なさ」を繊細に描く

夏目友人帳
ブレインズ・ベース 2008-12
朱夏 2016-21
監督:大森貴弘・出合小都美・伊藤秀樹
原作:緑川ゆき
シリーズ構成:金巻兼一・村井さだゆき
キャラクターデザイン:髙田晃
音楽:吉森信
キャスト:神谷浩史・井上和彦・小林沙苗・石田 彰・堀江一眞

生まれつき高い霊力を備えているために、普通の人間には見ることができない「妖(あやかし)」が見えてしまう高校生夏目貴志と、彼の周りにいる人々や妖たちとの交流を描いた物語です。

2023年2月現在、テレビアニメ6期、劇場版2作が製作されています。

テレビシリーズ各期タイトル
  • 第1期:夏目友人帳
  • 第2期:続 夏目友人帳
  • 第3期:夏目友人帳 参
  • 第4期:夏目友人帳 肆
  • 第5期:夏目友人帳 伍
  • 第6期:夏目友人帳 陸

「6期」というのは、他であまり例を見ないかもしれません。第1期の放送が2008年で、以降何度か間を空けながら2017年まで製作されました。

各期、いずれも1クールですが、それでも6期ともなると70話は超えてきます。長いですね。

ただ、実際の内容は1話もしくは2話完結の短いエピソードを連ねたもので、入り組んだ長い筋などはありません。「長過ぎて初めのころの話を忘れてしまった」というような心配もないため、70数話を連続で見なくても大丈夫です。

気が向いたときに数話ずつ見ていく、というのでもよいと思います。繊細な心理描写と、それがもたらす余韻をエピソードごとに楽しむ作品でもあるので、むしろそちらの方がよいくらいかもしれません。

なお、第6期放送終了からだいぶ時間は過ぎてしまっていますが、

  • 原作の連載が続いていること
  • 劇場版第2作が2021年に公開されていること

などから、第7期も十分あると、個人的には思っています。

というより、期待しています。

「癒し」の物語

夏目友人帳』には、「愛情不足で寂しい幼少期を送ってきた主人公夏目貴志が、自分を受け入れてくれる優しい人たちとの出会いによって癒されていく」という側面があります。

夏目は幼い頃に両親を亡くしており、その後は親戚の間をたらい回しにされてきました。

妖が見える、という彼の特殊な才能が、直接的もしくは間接的にその要因として働いたことは間違いありません。普通の人は妖が見えないばかりでなく、その存在すら知らないからです。

ですから、妖に関係した夏目の言動は、どうしても奇異に映ってしまいます。また、夏目は夏目でそうした事情を理解し、なるべく人と関わらないようにふるまってしまうのですね。

そのため、どこに行っても溝は埋まらないままです。

結果として、夏目の孤独な状態は続いていく。

そんな夏目の人生の転機となったのが、父方の遠縁にあたる藤原夫妻に引き取られたことです。

藤原家で心の安らぎを得る夏目

藤原夫妻には、子どもがいません。そのせいもあってか、夏目に実子同然の愛情を注いでくれます。もっとも、それはべたべたした溺愛ではなく、近すぎず、といって離れすぎもせず、程よい距離を保ったものになります。

高校生の男子にとっては、そのくらいがちょうどいい。それでいて、夏目のことを気にかけている様子はひしひしと伝わってきます。

断片的に描かれる夏目の過去のエピソードから想像するに、藤原家は、夏目が両親を亡くして以来、初めて見つけた居心地のいい場所であるように思われます。藤原夫妻との暮らしは、彼の心に安らぎを与えてくれる。

彼らとの出会いが、夏目の一つの「癒し」につながっているのですね。

夏目自身も藤原家をとても大事に思っています。それがよくわかるのは、妖が関係するトラブルに巻き込まれたときです。

藤原家に迷惑や被害が及ぶことだけは、絶対に避けなければならない。夏目は、常にそれを最優先に考えるんですよね。

初めての友人

既に紹介した通り、夏目の幼少期は孤独なものでした。

学校に通っていたらしいことは、何度か描かれる過去のエピソードからわかりますが、友だちはいなかったようです。

夏目が初めて友だちに恵まれるのは、藤原家での生活に合わせて転校してから。でも、夏目が自ら動いて友だちを作ったわけではないのですね。

親戚の間をたらい回しにされる、という、健全とは言えない子ども時代を過ごしたにしては、夏目はまっすぐに育っていると思います。もっと歪んだ人間になっていてもおかしくなさそうですが、そうはなっていない。

ただ、まったく問題ないかというとそうではなく、「妖が見える」という特殊な才能のせいもあって、人を避け、自分から積極的に関わろうとしない、という傾向は強くなってしまっています。

過去、友人ができなかったのには、そうした夏目自身の態度も影響していると思われます。

夏目が幸運だったのは、それでも関わろうとしてくれる同級生がいたことです。向こうから、声をかけてきてくれるのですね。

達観したところのある夏目ですから、放っておくと、いつまでも一人でいたでしょう。そうした働きかけをしてくれる相手がいなければ、友人はできなかったと思います。この点は、人に恵まれた、と言っていいと思いますね。

しかも友人は、その一人だけではないのですね。最初に声をかけてくれた一人をきっかけに、いつも一緒にいる仲の良いグループができます。また、「妖が見える」ことを打ち明けられる友人までできてしまいます。

夏目はもう、孤独ではないのですね。

優しい人たちに囲まれて、満たされた時間を過ごす夏目。普通の高校生の、普通の生活と言ってしまえばそれまでなのですが、過去の孤独と対比したときに、彼がようやく辿り着いたそのささやかな幸福に、見ているこちら側もじんわりと心が温かくなってきます。

この同級生の友人たちは、夏目の心に大きな癒しを与えてくれています。

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妖との交流

夏目友人帳』を語る上で欠かせない存在が、夏目のパートナーであり、用心棒でもある「ニャンコ先生」です。

ニャンコ先生は妖で、本当の名前は「斑(まだら)」といい、妖の中でも上位に位置する存在なのですが、普段は招き猫の姿をしているため、夏目からはそう呼ばれています。また、その愛らしい姿から、作品のマスコットキャラクターでもあります。

ニャンコ先生は夏目の死後、夏目の祖母レイコが残した「友人帳」をもらい受ける、という条件で、夏目の用心棒をしています。友人帳とは、妖から奪った名前が綴じられた帳面のこと。夏目と同じように強い霊力を持っていたレイコが作ったもので、持ち主は友人帳に名前のある妖を使役することができます。

一部の妖たちにとって、友人帳は垂涎の的です。でも、現在の持ち主である夏目は、それを使って妖たちに言うことを聞かせようとはしません。それどころか、妖たちの求めに応じて名前を返してやったりします。

幼い頃から、妖が見えることに悩まされてきた夏目。でも夏目は、妖を敵視してはいません。それは、ニャンコ先生との出会いによって、妖たちとの交流が生まれたことが関係しています。

すべての妖が、悪意の塊のような存在でないことを夏目は知っているのですね。

中には人間と同じように、心を通わせることができるものもいる。

この、人と妖の交流に力点が置かれており、それが繊細に描かれているのが、『夏目友人帳』という作品の特徴でもあります。

拭い去れない寂しさ

夏目友人帳』は、二つの「寂しさ」を感じさせる物語でもあります。

一つは、「理解されない寂しさ」。

これは藤原家に引き取られる前の夏目が常に感じていたものであり、そしておそらくは夏目の祖母レイコが感じていたものでもあるでしょう。

「妖が見える」ことを、理解してもらえない。

もっとも、これはある意味当然と言ってもいいかもしれません。大多数の人間にとって妖は、見えないばかりでなく、存在すら知られていないですからね。「見える」と言ったところで、変人扱いされるのが関の山です。

それでも夏目には、藤原家という心落ち着ける場所ができます。学校では友人もできますし、ニャンコ先生との出会いによって妖たちとの交流も生まれます。「妖が見える」ことを理解してくれる友人や知り合いまでできますから、夏目の感じていた孤独や寂しさは、かなり解消されることになります。

一方、夏目の祖母レイコについては、夏目と同じ、というわけにはいきません。

謎の多いレイコ

レイコがどうだったのかは、実際のところよくわかっていません。

物語開始当初で既に故人ですし、若くして亡くなったため、夏目も本人と会ったことがないからです。レイコのことを知る人も少なく、話を聞くのは妖たちからの方が多いくらいですが、得られるのは断片的な情報ばかり。

それでも何となく感じられるのは、レイコもまた、藤原家に引き取られる以前の夏目同様、孤独で寂しさを抱えた人であったのではないか、ということです。だからこそ、「友人帳」なるものを作ったのではないか、とも思えるのですね。

欲して得られなかった友人を、妖に求めていたのではないか。

妖から伝え聞くレイコのエピソードには豪気なものが多いですが、そうした思いが根底にあったとすると、切なさを感じます。

彼女がどんな生涯を送ったのかは、明らかにされていません。でも、夏目がそうであったように、彼女にもまた、孤独や寂しさを埋めるような巡り合わせがあってほしい。

そう願わずにはいられなくなります。

妖たちが見せてくれるもの

もう一つは、「取り残される寂しさ」です。

これは主に、妖たちが見せてくれる寂しさです。

既に紹介した通り、妖たちの中には人間と心を通わせることのできる者がいます。友人の場合もあれば、主従の場合もあるその関係は、人間同士のものとほとんど同じ。

大きく違うのは、妖と人間では生きる時間の長さに差があるという点です。

何百年も寿命がある妖と違って、人間は長くても百年程度しか生きられません。そのため、どんなに親しくなっても、決まって人間の方が先にいなくなってしまうのですね。

夏目友人帳』には、そうして取り残されてしまった妖たちが何匹も登場します。

心を通わすことができる相手との時間は、幸福です。それが、妖たちにとっても同じ、というのは『夏目友人帳』という作品の一つの特徴ですが、幸福なだけに、失われた後の寂寞も大きい。

別れは、妖たちの心に埋めがたい空洞をもたらします。その穴は、誰にもどうにもできないものであり、寂しさは、ただそれを受け止めて耐えるしかない。

そんな人生そのものにも通じそうな哀しさを、『夏目友人帳』に登場する妖たちは見せてくれます。

胸を締め付けられるような彼らの思いは、画面を通して、見ている我々にも伝わってきます。

夏目たちにもいずれ必ず訪れるもの

「去るものと、残されるもの」の関係は、夏目やニャンコ先生たちの身にも、いずれ必ず訪れるものです。

そしてこれが『夏目友人帳』から拭い去れない寂しさの理由でもあるように思うのですが、夏目もニャンコ先生も、おそらくは無意識のうちにそのことに言及してしまっているんですよね。

二人を(名目上)結び付けている「夏目が死んだら、友人帳をニャンコ先生に譲る」という二人の約束に、それは表れています。

この約束は、夏目が先にいなくなることが、前提になっているんですよね。

二人は、暗黙の裡にそれを共有してしまっている。もちろん、これ自体は動かしようのない事実であり、誰でも容易に想像できることではありますで。でも、それをあえてぼかしておき、考えないようにするのが、寂しさから逃れる数少ない手段の一つであるようにも思うんですよね。

この約束には、夏目がいなくなった後の時間を想像させてしまうところがあります。そこが、哀しい。

残されたものの寂しさを、ニャンコ先生は知っているはずです。レイコとの別れを経験しているからです。

それでもなお、夏目との関係を結んでしまう。そうせざるを得ないんですよね。

これは人と妖の関係だけでなく、人と人との関係でも同じでしょう。

いずれ哀しく寂しい別れが訪れるとわかっているのに、それでも誰かを求めてしまう。求めずには、いられない。そうしなければ、孤独は埋められないからです。

このどうしようもない切なさを、人と妖の関係になぞらえて繊細に描いているのが『夏目友人帳』という作品の大きな魅力なんだろうと思います。

『夏目友人帳』の音楽

夏目友人帳』は、音楽もよかったです。

特に、エンディングテーマに印象的な曲が多かったですね。エピソードの最後、余韻に重ねてくるような使い方が何度かありましたが、非常に効果的でした。

個人的には、

  • 第二期ED「愛してる」(高鈴)
  • 第四期ED「たからもの」(河野マリナ)
  • 第五期ED「茜さす」(Aimer)

が好きでした。

タイトルテレビ
第1期:夏目友人帳
第2期:続 夏目友人帳
第3期:夏目友人帳 参
第4期:夏目友人帳 肆
第5期:夏目友人帳 伍
第6期:夏目友人帳 陸
劇場版
第1作:劇場版 夏目友人帳 〜うつせみに結ぶ〜
第2作:夏目友人帳 石起こしと怪しき来訪者
放送・公開テレビ
第1期:2008年7月7日 – 9月29日
第2期:2009年1月5日 – 3月30日
第3期:2011年7月4日 – 9月26日
第4期:2012年1月2日 – 3月26日
第5期:2016年10月5日 – 12月21日
第6期:2017年4月12日 – 6月21日
劇場版
第1作:2018年
第2作:2021年
話数第1‐4期:全13話
OVA全2話
第5期:全11話 + 特別編1話
OVA全2話
第6期:全11話
OVA全2話
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この記事を書いた人

アニメとサッカーを見るのが好き。
累計視聴数は400本を超えていて、今も増え続けています。

作品を見て、感じたこと、考えたことを書いています。