機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星 サンライズ 2019 |
総監督:安彦良和 |
原作:矢立 肇・富野由悠季 脚本:隅沢克之 キャラクターデザイン:安彦良和・ことぶきつかさ・西村博之 音楽:服部隆之 キャスト:池田秀一・潘めぐみ・銀河万丈・三宅健太・渡辺明乃 |
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』は、2019年4月から8月にかけてNHK総合で放送されたテレビアニメです。
原作は安彦良和の漫画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』。その一部である「シャア・セイラ編」と「ルウム編」が2014年から2018年にかけてOVA化され、劇場でイベント上映されました。本作はそれをさらに、テレビ用に再編集したものです。
この作品は、とにかく原作がいいです。『機動戦士ガンダム』(いわゆる「ファーストガンダム」)を、アニメのメインスタッフだった安彦良和が独自の解釈で描き直しているのですが、これが非常に良作。大筋は同じ、でも細部は結構違っていて、それが新たなガンダム像を見せてくれます。
本作でアニメ化されている「シャア・セイラ編」「ルウム編」は『THE ORIGIN』独自の部分に当たり、『機動戦士ガンダム』の前日譚となっています。
ただ、だからと言って変に時系列にこだわったりはせず、見る順番は、
- 『機動戦士ガンダム』
- 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』
にしておいた方がいいと思います。
本作には、原典である『機動戦士ガンダム』の補完的なところがあるので、先に『機動戦士ガンダム』を見ておいた方が楽しめるからです。
「40年以上前の作品を、43話全部見るのはさすがにきつい!」という方は、劇場三部作だけでもいいと思います。
- 機動戦士ガンダム(劇場版)
- 機動戦士ガンダムII 哀・戦士編
- 機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙(そら)編
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』概要
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』で描かれているのは、「一年戦争前史」と『機動戦士ガンダム』には出てこなかった一年戦争初期の戦いです。
メインで描かれているのは、ガンダムシリーズで最も知名度の高いキャラクターの一人シャア・アズナブルと、その妹セイラ・マス。
二人がまだキャスバル、アルテイシアという本名で呼ばれていた幼少時代から、物語は始まります。
父ジオン・ズム・ダイクンの死後、二人はどのようにザビ家の手をかいくぐって、マス家に逃れたのか。そこからさらにキャスバルがどのようにしてシャア・アズナブルの名前を手に入れ、ジオンの士官学校に潜り込んだのか。
モビルスーツのパイロットになる前に、シャアは一度軍を除隊にもなっているのですね。そこから赤い彗星と呼ばれるようになるまでが描かれています。
ガンダムファンにとって楽しいのは、少年時代のキャスバルだけでなく、ギレンやドズル、キシリアといったザビ家の面々や、ランバ・ラルなども若かりし日の姿で出てくるところです。一年戦争が始まる前の、ジオン側の人々(当時はまだジオンという国名ではないですが)の姿を見ることができるのですね。
また本作では設定上の存在でしかなったザビ家の次男、サスロ・ザビも登場します。出番はそれほど多くはないですが、動くサスロが見られるのも貴重です。
この他、本作ではガンダムシリーズに欠かせない存在であるモビルスーツの開発過程も描かれています。どのような経緯をたどって、「ザク」が開発されたのか。また、地球連邦側のどんな危機感が「V作戦」の実行を踏み切らせたのか。
こちらで存在感を示しているのは、アムロの父テム・レイです。『機動戦士ガンダム』では精神に異常をきたした状態での登場でしたが、本作ではまだ正気を失っておらず、理想に燃えるモビルスーツ開発者としての姿を見せてくれています。
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』レビュー

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シャアとセイラについてより深く知ることができる
『機動戦士ガンダム』において、過去が最も気になるキャラクターといえばシャアとセイラです。
ジオン・ズム・ダイクンの遺児で、兄妹でありながら生き別れになっており、二人がそれぞれ異なるファミリーネームを名乗っている。そんな二人が、どんな過去を経て『機動戦士ガンダム』という物語にたどり着いたのか。
その疑問に答えてくれるのが、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』という作品です。
本作で描かれている二人の過去は、なかなか壮絶です。
すべての不幸の原因は、父ダイクンが早くに亡くなってしまったことにあります。それがために二人はザビ家とラル家の権力闘争に巻き込まれ、また、命の危機にさらされるような事態に何度も直面することになります。
ダイクンの死後、権力を握ろうとするザビ家にとって、キャスバルとアルテイシアは目障りな存在でしかありません。特にキャスバル(シャア)は幼い頃から人並外れたところがあり、キシリアから警戒されていました。
それがために命を狙われることにもなるのですが、シャアは持ち前の才能を発揮し、時に暴力や非人道的な手段さえ駆使して、それらをかいくぐっていきます。
ジオンの士官学校に潜り込んでからは、命を狙われるようなことはなくなりました。代わりに目立つのは、その突出した才能です。
『機動戦士ガンダム』におけるシャアと言えば、飛び抜けた実力とそれにふさわしい自信満々な態度が印象的なキャラクター。本作を見てわかるのは、学生時代から既にそうだったということです。
シャアは、昔からシャアだったのですね。
そうした姿は、話に聞くことはあっても、実際に描かれることはありませんでした。
それを見せてくれるのが、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』という作品の魅力です。
母への想い
「ララァ・スンは私の母になってくれるかもしれなかった女性だ」
映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のクライマックスで、シャアが口にするセリフです。
この頃のシャアは、既に30代半ばに突入しています。そこそこいい年齢と言ってよく、そんな彼の口から飛び出したこの言葉をどう受け取るかは一人一人に委ねますが、一つだけ確かに感じられるのは、シャアにマザコンの気があるということ。
早くに両親と別れたシャアが、母親の愛情に飢えているだろうことは何となく想像がつきます。
ただ、父ダイクンとの死別はともかく、母との別れについてはこれまでよくわかっていませんでした。
それについて詳細に描いてくれているのが、本作『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』です。
シャアとセイラが、なぜ父親とだけでなく母親とも別れなければならなかったのか。
その別れ方は、どのようなものだったのか。
事実はあまり幸福なものとは言えません。シャアがマザコンをこじらせてしまったのも、わからないではない、というような内容になっています。
この母親との関係について詳細に知ることができるのも、本作の魅力です。
シャア・アズナブルというキャラクターを、より深く知ることができます。
モビルスーツ開発前史
本作のもう一つおもしろいところは、モビルスーツ開発前史を描いてくれているところです。
初期の初期、まだモビルスーツではなく、モビルワーカーと呼ばれていた時代の姿から見せてくれています。
モビルワーカー時代は、建設機械の印象が濃いです。これは、ジオン側が月面開発作業用の人型作業機械開発という名目で、モビルスーツ開発を行っていたからです。
まだまだモビルスーツとは呼べないような状態から、最後はおなじみのザクに至るまでの過程がメインのストーリーに絡める形で描かれています。
またジオン側だけでなく、連邦側の開発の様子も描かれています。
こちらで存在感を見せているのは、アムロの父テム・レイ。連邦のモビルスーツ開発に不満を抱えていた彼が、どのようにしてガンダム開発に着手することになったのかがわかります。
この部分は実は、ザク誕生と同時期に、既に連邦側にもモビルスーツが存在しているなど、原典である『機動戦士ガンダム』との違いが目立つところでもあります。
しかしまあ、それは頭の片隅に置いておくとして、中身はガンダム好きなら十分楽しめるものになっています。
開戦前のザビ家の様子がわかる
ザビ家について、詳しく書かれているのも本作のおもしろいところです。
ギレンやドズル、キシリアたちの若い頃が描かれているのもいいですし、彼らの微妙な立ち位置がよくわかるようになっているのもいい。
軍事にかかわる部分だけでなく、プライベートな部分もわずかですが描かれています。『機動戦士ガンダム』にはなかった、意外な側面ですね。
『機動戦士ガンダム』での年齢設定は、実は見た目よりは随分若いのですが(ギレン35歳、キシリア24歳など)、本作ではそうした不自然さのない年齢に変更されています。
中でも特にいいのが、三男のドズルですね。元々生粋の軍人という印象でしたが、本作では原典以上に人間臭く、また策謀にたけたギレンやキシリアと違って裏表のない、魅力溢れる人物として描かれています。
圧倒的なザク
CGを使って描かれる戦闘シーンも、本作の魅力の一つです。
本作が他のガンダムシリーズと大きく違うのは、モビルスーツがまだ一般的でない時代を描いているという点です。
そのため、モビルスーツ同士の戦闘はほとんど描かれません。
代わりに描かれるのが、艦隊戦。それと、モビルスーツと軍艦、モビルスーツと戦闘機の戦いです。
ここでいうモビルスーツとは、具体的にはザクです。
『機動戦士ガンダム』では、「やられ役」のイメージも強いザク。でも本作で描かれるルウム会戦では、モビルスーツの実践投入最初期の戦いということもあり、連邦の軍艦や戦闘機相手に圧倒的な強さを見せます。
シャアの駆る赤いザクの活躍もすばらしい。シャアザクと言えば「通常の三倍のスピード」が決まり文句ですが、機体のきしみやパイロットにかかるGなどを描くことで、その尋常ではないスピード感をよりリアルに感じさせる映像となっています。
全体的にクオリティの高い作品ですが、バトルシーンは特にそれを感じました。
聞き覚えのあるOPとED
冒頭でも紹介しましたが、本作『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』は、OVAとして制作された『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』のテレビ版です。
そのため、内容は一部カットが省略されていること以外基本的には同じです。ただ違いももちろんあって、その一つがOPテーマとEDテーマ。
本作ではその一部に、過去のガンダム関連曲のカバーが使われています。
ここで個人的にちょっとおもしろかったのは、原典である『機動戦士ガンダム』以外の曲も使われていたところです。
使われていたのは、
- めぐりあい
- 水の星へ愛をこめて
- BEYOND THE TIME ~メビウスの宇宙を越えて~
なのですが、「めぐりあい」以外は『機動戦士ガンダム』じゃないんですよね。
「水の星へ愛をこめて」は『機動戦士Ζガンダム』、「BEYOND THE TIME ~メビウスの宇宙を越えて~」は『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の曲です。
『THE ORIGIN』は『機動戦士ガンダム』の描き直しなので、初めは「なんで?」と思いました。ただよく考えてみると、どちらもシャアが登場する物語だからということだったのかもしれません。
『Ζ』と『逆襲のシャア』は、赤い彗星のその後の物語と言えるでしょう。
曲は、どちらもよかったです。
個人的には『Ζ』が好きなので、「水の星へ~」が聞こえてきたときには思わず身を乗り出してしまいました。
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』まとめ
『機動戦士ガンダム』以前の世界を知ることができるのが本作と書いてきました。ただこれがいわゆる「正史」かというと、実はちょっと違ってます。
冒頭でもご紹介した通り、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』という作品は、作者である安彦良和の解釈によって『機動戦士ガンダム』を描き直したものだからです。
実際、「正史」とは完全に一致していないところもあります。そのため、パラレルワールドと位置付けるのが正しいのですね。
ただ、「正史」でも同じようなことがあったんじゃないかと個人的には思っています。そのくらい、クオリティが高いし、見ごたえがあります。
なお、今回紹介した『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』ですが、どうやら2023年6月時点で配信はないようです。
OVA版の方は配信あるようなので、気になる方はそちらをチェックしてみてください。
内容は基本的に同じ、テレビ版は尺の都合でカットされたシーンもあるので、OVAの方がより完全なものを見ることができると思います。
あと、本作はとにかく原作漫画がよいです。
アニメ化されたのは一部だけですが、原作では本作以降の話も描かれているため、「その先が知りたい!」という方はぜひそちらも手に取ってみてください。
タイトル | OVA版 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』 テレビ版 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』 |
放送・公開 | OVA版 2015年-2018年 テレビ版 2019年4月29日 -2019年8月12日 |
放送局 | NHK総合 |
話数 | OVA版 全6章 テレビ版 全13話 |