『東のエデン』感想・レビュー|かわいらしいキャラクターと骨太ストーリーのギャップ

放送当時、神山健治監督作品でありながら本作を敬遠していたのは、キャラクター原案が羽海野チカ氏で、放送枠が「ノイタミナ」だったからなんだろうと思います。

『ハチミツとクローバー』で見られるようなかわいらしいデザインのキャラクターたちと、「女性向け」の色が濃く感じられた当時の「ノイタミナ」の印象から、「甘い恋愛もの」を勝手に想像してしまっていたのですね。

誤解のないように断っておくと、私は決して羽海野チカ氏の作品が嫌いとか、「ノイタミナ」を否定的に見ているというわけではありません。ただ、神谷監督作品に求めるのはそこではないんだよな、という思いがありました。

今にして思えばすべて私の勝手な思い込みに過ぎなかったわけですが。

この国の”空気”に戦いを挑んだひとりの男の子と、彼を見守った女の子のたった11日間の物語

という本作のキャッチコピーも、そうした勘違いに拍車をかけた一因でした。「男の子」「女の子」という表現だけでもう、渋いお茶をガブ飲みしたくなるくらい口の中が甘ったるくなってしまったのですね。

このキャッチコピーも、よく見れば「この国の”空気”に戦いを挑んだ」というあたりに、神山監督の色がしっかり出ているんですけどね。

当時の私は豪快にスルーしていました。我ながら、節穴だったなと思います。

実際には『東のエデン』は「甘ったるい恋愛もの」などではなく、もっと硬派な要素の濃い作品でしたからね。

「ノイタミナで放送できる『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』を作ってほしい」

という依頼を受けて制作されたことが神山監督自身によって語られていますが、まさにその通りの作品だったと思います。

テレビシリーズは全11話と短めではあるのですが、見ごたえのある作品でした。

『東のエデン』概要

東のエデン

放送・公開テレビ:2009年
劇場版:2009、10年
話数テレビ:全11話
劇場版:2作
制作Production I.G
監督神山健治
シリーズ構成神山健治
キャラクター原案羽海野チカ
キャスト木村良平
早見沙織
江口拓也
川原元幸

東のエデン』の時代設定は2011年。主な舞台は日本です。

現代の日本に生きる我々にとって、この時代設定は特別な記憶を想起させます。ただ、『東のエデン』のテレビ初放送及び劇場公開は2009~2010年ですので、当然ながらそれを意識して制作された作品というわけではありません。

東のエデン』の世界では、2010年11月に大きな事件が起こっています。

迂闊な月曜日」と呼ばれているこの事件は、日本各地に10発のミサイルが撃ち込まれるという衝撃的なテロでした。

ただ、奇妙なことにこの事件、一人の犠牲者も出ていないのですね。そのせいもあってか、人々はすぐに事件のことを忘れてしまいます。

物語が始まるのは、『迂闊な月曜日」から3ヶ月後のことです。

卒業旅行でアメリカを訪れていた大学生の森美咲は、ホワイトハウスの前でトラブルに巻き込まれていたところを一人の日本人青年に救われました。

青年の名は、滝沢朗。

全裸に拳銃と携帯電話を握りしめただけ、というエキセントリックな姿で咲の前に現れた滝沢は記憶を失っていました。

そのため、

  • 自分が何者なのか
  • なぜそんなあぶない姿でホワイトハウスの前をうろついていたのか
  • 握った携帯電話にチャージされていた82億円分の電子マネーは、どういう経緯で手に入れたものなのか

といったことを、まったく覚えていません。

そんな滝沢なのですが、その人柄には不思議な魅力があり、咲は出会ったばかりの彼に惹かれていきます。

失われた記憶を求めて行動を起こす滝沢と、時に寄り添い、時に離れた場所から彼を見守る咲。やがて滝沢は、自分が選ばれて参加していたあるゲームの存在を知ることになります。

劇場版まで見て完結

東のエデン』は「ノイタミナ」で放送されたテレビシリーズの他に、劇場版が2作、制作されています。

タイトルは次の通り。

  • 『東のエデン 劇場版I The King of Eden』
  • 『東のエデン 劇場版II Paradise Lost』

この2作品は、どちらもよくあるテレビシリーズの再編集ではなく新作です。

テレビシリーズの後日談となっており、劇場版第2作をもって『東のエデン』は完結となりますので、これから『東のエデン』を見るという方はぜひ劇場版2作の視聴まで、視野に入れていただければと思います。

『東のエデン』レビュー

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「時代の空気」が感じられる作品

東のエデン』で特徴的なのは、

物語の背景に、現代にも通じるような政治や社会の問題を取り入れている

という点です。

かわいらしさを感じさせるデザインのキャラクターからは想像しにくいかもしれませんが、硬派な要素が多めに含まれているのですね。

もっとも、この点は本作が、

「ノイタミナで放送できる『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』を作ってほしい」

という依頼の元に制作された作品であることを思い出せば、うなづけるんじゃないかとは思います。

政治や社会の問題は、『S.A.C』において欠かせない要素となっていました。

ただ、『S.A.C』よりも『東のエデン』の方がより同時代的です。

『S.A.C』で描かれていたのは、放送当時から30年近く未来の世界でした(初放送が2002~03年で、時代設定は2030年)。

一方、『東のエデン』は放送が2009~10年、時代設定が2011年ですから、放送当時から1~2年先の極めて近い未来の話です。

もちろん、近いとはいえ放送時期より先の世界を描いているわけですから、物語が架空のものになることは間違いありません。2011年の日本を語るうえで避けて通れない震災も、『東のエデン』では発生していないですからね。

それでも、取り上げられている政治や社会の問題は『S.A.C』よりぐっと身近なものになっていました。そのため、放送当時(2000年代)の日本が抱えていた「時代の空気」が非常によく感じられるものになっています。

抵抗のスタイルとしての「ニート」

東のエデン』で目を引くのは、「ニート」に光を当てているという点です。

「ニート」そのものというより、「ニート」という言葉に、と言った方が正しいのかもしれません。ヒロイン森美咲の友人の中には、「ニート魂」なる言葉を口にする者もいます。

一般的には「ニート」という立場は消極的な選択の結果であり、積極的に得たものではないという印象があるように思います。

「仕事をしない、学校にも行かない、職業訓練も受けない」(「Not in Education, Employment or Training」)という選択の結果が、「ニート」ですからね。

ただ『東のエデン』では、少し違います。

先ほど紹介した「ニート魂」という言葉からもわかるように、自ら積極的に「ニート」という立場を求めていっているところがあるのですね。というのも、

東のエデン』における「ニート」には、「抵抗」とか「反体制」のような意味が含まれている

からです。

何に対する抵抗なのかといえば、それは先ほども紹介した「時代の空気」です。

正確には、その一部である閉塞感と諦念です。

社会や人生に何となく息苦しさを感じていながら、これはもう変えようがないものなのだ、とあきらめてしまっている感じ

と言ってもいいかもしれません。

既存の社会システムに組み込まれることは、上記のような閉塞感と諦念を受容することにつながります。

もちろん、システムそのものを変えられれば一番いいですが、それができないことはもう、わかってしまっています。となると、取れる抵抗の手段はもう、システムに組み込まれることを拒絶するしかありません。

「ニート」はまさに、これを体現した存在と言えます。「仕事をしない、学校にも行かない、職業訓練も受けない」ことで、システムから逃れているからです。

東のエデン』では、「ニート」のこの「抵抗」や「反体制」といった部分が強調されていました。

「ニート魂」という言葉が、それを象徴していたと思います。

「戦後日本」に対する疑問

「閉塞感と諦念」をはらみ、「ニート」がその抵抗手段となっていることからもわかるように、『東のエデン』が描く(そしてそれが現実でもある)「時代の空気」は決して肯定的なものではありません。

でもそれは、突然降って湧いたものではないのですね。戦後の日本が、長い時間をかけて積み上げてきたものでもあるわけです。

するとここで、一つの疑問が浮かんできます。

「戦後日本」が歩んできた道のりは、間違っていたのではないか

この「戦後日本」に対する問題意識は、実は『東のエデン』という作品の核になっています。

滝沢が参加する「ゲーム」

東のエデン』は、失われた滝沢朗の記憶を追うことから、物語が動き始めます。「記憶を失う前の滝沢がどんな人間で、何をしていたのか」というのは、物語をけん引する大きな謎の一つです。

でも、それだけではありません。物語が進むにつれて明らかになってくるのは、滝沢がある特殊なゲームの参加者であるという事実です。

記憶を失い、全裸でホワイトハウスの前をうろつきながらもなお手放さずにいた携帯電話こそが、その証拠でもあります。82億円分という常識はずれの大金がチャージされたこの携帯電話、実はゲームの主催者から与えられたものであって、他にも特殊な機能を備えているのですね

機能の詳細は作品の視聴に譲りますが、この携帯電話を活用してある目的を達成することが、ゲームの参加者たちに求められています。

ゲームに参加させられているのは滝沢だけではありません。他にも複数の参加者がおり、基本的には全員がライバルです。というのも、ゲームには早い者勝ちの要素があり、目的を達成できなかった場合にはペナルティが課されるからです。

ただ、では全参加者が互いにけん制しあっているのかというとそうでもないのですね。参加者同士で共闘していたり、あるいは自分の目的だけに集中して、他の参加者のことなどまるで気にしていなかったりもします。

ゲームがどのように展開し、どのような結末を迎えるのか。これもまた、『東のエデン』という作品を引っ張る大きな魅力です。

そしてまた、達成すべきゲームの目的というのが、実は「戦後日本」に対する問題意識と大きく関係したものにもなっています。

『東のエデン』まとめ

東のエデン』はまさに、「ノイタミナで放送できる『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』」というのにふさわしい作品です。

かわいらしいキャラクターデザインに勘違いしてしまいそうですが、『S.A.C』が好きなら楽しめるんじゃないかと思います。

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最新情報

本記事の情報は、2022年8月21日時点のものです。最新の情報は公式サイトをご確認ください。

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この記事を書いた人

アニメとサッカーを見るのが好き。
累計視聴数は400本を超えていて、今も増え続けています。

作品を見て、感じたこと、考えたことを書いています。