僕らがスピンオフに期待するもの~『幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-』を見て【感想・レビュー】

幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-
サンライズ 2023
監督:中谷亜沙美
原作:矢立肇
シリーズ構成:大野敏哉
音楽:加藤達也
キャラクターデザイン:山本由美子
キャスト:小林愛香・日笠陽子・高槻かなこ・小宮有紗・降幡愛・伊庭杏樹・斉藤朱夏・諏訪ななか・逢田梨香子・鈴木愛奈
OPテーマ:
 幻日ミステリウム/Aquars
EDテーマ:
  キミノタメボクノタメ/Aquars

「幻日」。この単語、初見で読めました?

読み方は「げんじつ」です。太陽と同じ高さに現れる光のことで、太陽によく似ていることから、「幻の太陽」とか「もう一つの太陽」という意味のあるこの名前が与えられたみたいです。

「幻日」は気象光学現象の一つで、発生には氷晶が関わっているとのことなのですが、気象光学現象はまったく詳しくないのでこれ以上はやめておきます。

本作のタイトルにこの単語が用いられているのは、『ラブライブ!サンシャイン!!』のスピンオフ作品だからでしょう。

「もう一つの『サンシャイン』」→「もう一つの太陽」→「幻日」

という連想ですね。なかなかひねりが利いています。

ただ、このタイトル、よく見ると「ラブライブ!」は入ってないんですよね。「サンシャイン」の方は、「幻日」「SUNSHINE」と二つも入っているのに、です。

しかしまあそれも納得の内容で、「ラブライブ!」シリーズの派生作品でありながら本作、「ラブライブ!」も「スクールアイドル」もまったく登場しない物語になっていました。そういう意味では他のシリーズ作品とは違う形で枝を伸ばそうとする、新しい試みだったとは思います。

ただ、『幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-』はスピンオフとして成功だったのかというと、個人的にはちょっと物足りない印象を受けました。

本記事では、そのあたりを中心に書いていこうと思います。

『幻日のヨハネ』感想1:「スピンオフ」への期待

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「本作は、○○のスピンオフです!」

そう紹介された作品に期待するものって、何でしょうか?

「人によって違う」。確かにその通りです。ぐうの音も出ないほどの正論です。ただ、そうは言いながらも多くの人に共通しているのは、

原典との共通性を感じさせながらも、明確に原典とは違う作品

なんじゃないかと思います。原典という素材を、どんな風に料理したのかが見たいんですよね。

ここで大事になってくるのが、「原典との共通性」です。

共通点があるかないか、ではありません。原典との共通点が一つもない、というスピンオフは見たことがないですし、さすがにそういう作品は存在しないでしょうからね。

問題は、どのくらい原典に寄せているか、です。程度の問題、あるいは距離観の問題と言えばいいのかもしれません。

これの難しいところは、近ければいいというものでもないところです。

あまり原典に寄せ過ぎてしまうと、今度はスピンオフをやる意味がなくなってしまうからです。原典と同じ事をやっても、意味がないですからね。同じものをもう一度見るくらいなら、原典を見れば十分です。

では原典から遠ざかればいいのかというと、それはそれで別の問題が出てきます。

今度は、物足りなさを感じるようになってしまうんですね。

スピンオフで見たいのは、「原典をどう料理したか」です。でも、原形がなくなるほど手を入れることは求めていません。

十分な調理をしつつ、素材の味もしっかり感じさせてほしい。

それが求められるところであって、そのバランスがうまくいっているのが、スピンオフとして成功している作品なんだと思います。

『幻日のヨハネ』の距離感

では、今回取り上げる『幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-』は、スピンオフとしてどうだったか。

冒頭でも書いた通り物足りなさが残りました。

その一番の要因となったのが、キャラクターです。

主人公のヨハネはそうでもなかったのですが、それ以外のメンバーに原典である『ラブライブ!サンシャイン‼』との間の距離を感じてしまいました。

「ラブライブ」シリーズって、アイドルものだけあってキャラクターが特に重視されている作品だと思うんですよね。『ラブライブ!サンシャイン!!』でも、メインのスクールアイドルグループであるAquarsのメンバーは個性がはっきりしていて、9人全員がとても魅力的に描かれていました。

スピンオフである『幻日のヨハネ』でも、この部分の継承が期待されました。でも実際には、そうはなってなかったですね。『幻日のヨハネ』から感じる『サンシャイン!!』風味は、ひどく薄いものになっていました。

マリなんて、性格も真逆になっていましたからね。こうなってくるともう、容姿が似ているというだけの別人です。

「別人だろ!人間じゃなくて魔王になってたんだから!」とツッコミたくなった方もいるかもしれませんが、もちろん言いたいのはそういうことではないです。

キャラクターの個性や人間関係は、原典を色濃く感じさせるものにしておいた方がよかったんじゃないかと個人的には思います。

いつものキャラクターたちが、いつもと違う世界でどのようにふるまうか。

見たいのは、これなんですよね。

「いつものキャラクター」が、原典とまったく同じである必要はありません。細部に違いはあってもいいと思います。

ただ、幹の部分は同じであってほしい。少なくともそう感じさせることはしてほしかったですね。そこが本作では不足しているように思いました。

マリのケースなんかを見ると、むしろ原典から遠ざけようとしているのかとすら感じるくらいでしたからね。

原典との違いはキャラクター以外の部分で実現

「原典との明確な違い」も、スピンオフ作品で大事になるところです。

しかし、それをキャラクターで出す必要はなかったんじゃないか、と思いますね。『幻日のヨハネ』の場合。というのも、キャラクター以外の部分で、違いは十分に出せていたからです。

「ラブライブ」シリーズで最も特徴的な要素と言えば、「スクールアイドル」と「ラブライブ!」なんじゃないかと思います。

この二つがあるから「ラブライブ!」シリーズと呼べるんだ、と言ってもいいくらいですが、『幻日のヨハネ』には「スクールアイドル」も「ラブライブ!」も出てきません。

出てこないのですが、スピンオフとしてはこれでもう十分なんですよ。この二大要素がないだけで、原典である『ラブライブ!サンシャイン!!』とは、違う物語になっています。ここからさらに、違いを作ろうとする必要はなかったんじゃないかと思うんですよね。あまりやり過ぎると、今度は「原典」から遠ざかり過ぎてしまいますし。そうなってしまったら、今度は何のためのスピンオフなのかわからくなってきてしまいますからね。

だからこそ、キャラクターはそのままでよかったと思うんですよね。

まあもっとも、『幻日のヨハネ』に登場したAquarsのメンバーに、原典との類似がまったくなかったかとまで言うつもりはありません。

先ほども書きましたが、主人公ヨハネの人物造型は原典にかなり近いものがありましたし、ハナマルの語尾はきちんと「ズラ」混じりになっていました。第7話に開催された女子会で、三人ずつに別れたグループのメンバーが原典での学年ごとになっていたのも確認していますし、顔が似ている「そっくりさん」に過ぎないのかと思ったマリにも、原典での口癖だった「シャイニー」を口にする場面が二度ほどあったと記憶しています。

ただ、それでもやはり全体的には薄味な印象でした。原典のキャラクターがせっかく魅力的なんですから、もっと色濃く感じさせても、良かったように思います。

ちなみに、このあたりの距離感が良かったと個人的に思っているのは、『幻日のヨハネ』と同じサンライズ制作の、

  • 舞-HiME』 (2004年)
  • 舞-乙HiME』(2005年)

です。

厳密にはこの2作品は原典とスピンオフの関係ではありません。ただ、「スターシステム」を採用しているという点は『幻日のヨハネ』と同じで、前作(『舞-HiME』)のキャラクターたちが、次の作品(『舞-乙HiME』)に設定を変えて登場していました。

2つの作品の世界観は、まったく異なります。ですが、後から作られた『舞-乙HiME』に引き続き登場するキャラクターたちには、前作『舞-HiME』における個性や人間関係が色濃く残されていて、『舞-HiME』から継続で見ているファンを楽しませてくれました。

『幻日のヨハネ』感想2:原典の主人公をどう扱うか

原典の主人公をどう扱っているか、もスピンオフ作品で気になるところです。

幻日のヨハネ』の場合、該当するのはチカですね。

原典の主人公は、存在感が違います。スピンオフでも継続して主人公を担っている場合は良いですが、そうでない場合は注意が必要です。下手な扱いをすると、スピンオフの主人公を食ってしまいかねません。

これはスピンオフに限らず、シリーズ作品の続編にも同じことが言えます。もちろん、こちらも主人公が交代している場合ですけどね。

「扱いって言っても、スピンオフでは主人公じゃなくなるんだから、他の脇役と同じにすればいいだけじゃないの?」

これが、そんなに簡単な話ではないんですよね。

繰り返しますが、存在感が違うわけですよ、最初から。原典の主人公については、既に分厚く語られた物語がありますからね。初めからその背景を背負って登場しますから、他の脇役と同じに扱おうとしても同じにはならないのです。

では、どうしたらいいのか。

最もシンプルな対策は、出番を少なくすることです。原典の主人公を、あまり物語に関わらせないようにするのです。そうすれば、その存在は自然と希薄化します。

ただ、これはこれで別の問題を生んでしまいます。まったく存在感がないというのも、それはそれで好ましくないのですね。

原典の主人公ともなると、視聴者もそれなりに思い入れがあるわけです。あまり出しゃばるのは良くないとは理解しつつ、それでもやっぱり活躍しているところが見たいと思うのが人情でしょう。

『幻日のヨハネ』の場合

この点、『幻日のヨハネ』のチカは良かったと思います。

全体的に、存在は控えめにされていました。

二人の姉と連れ立って「ミリオンダラー」なる仮面姿で登場してきたときには目を剥きましたが、ほぼ同時期に登場したダイヤの「スカーレット・デルタ」の方が強烈だったため、それほど強いインパクトを与えるものにはなっていなかったと思います。

一方で、原典の主人公らしい活躍の場もしっかりと与えられていました。

特に良かったのは、物語も終盤に突入した第11話です。自分に魔法はない、と落ち込んで、大事にしていた杖も川に投げ捨ててしまったヨハネ。

そんなヨハネを仲間たちが励まそうする場面で、先頭に立って企画を立ち上げていたのがチカでした。「私に考えがある」と口にしたときのドヤ顔には、頼もしさすら感じましたね。

ヨハネが立ち直る過程でも、チカの言葉は大きな助けになっていました。「原典の主人公の助けによって、スピンオフの主人公が力を取り戻す」という展開は、ファンにとっては胸を熱くする展開だったんじゃないですかね。

最後に

今回は、スピンオフとして見た場合の『幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-』について書いてみました。

当然のように、原典である『ラブライブ!サンシャイン!!』は視聴済みという前提で書いていますが、Twitterでは『サンシャイン!!』未視聴のまま本作を見ている、という方もちらほら見かけました。

そういう方にとっては、また少し違った印象になるのかもしれません。

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この記事を書いた人

アニメとサッカーを見るのが好き。
累計視聴数は400本を超えていて、今も増え続けています。

作品を見て、感じたこと、考えたことを書いています。