アニメと原作、どっちが先?本作の場合は?|『さよなら私のクラマー』感想・レビュー

さよなら私のクラマー
ライデンフィルム 2021
監督:宅野誠起
原作:新川直司
シリーズ構成:高橋ナツコ
音楽:横山克
キャラクターデザイン:伊藤依織子
キャスト:島袋美由利・若山詩音・黒沢ともよ・悠木碧・甲斐田裕子
OPテーマ:AMBITIOUS GOAL/小林愛香
EDテーマ:悔しいことは蹴っ飛ばせ/小松未可子

突然ですが、気になるアニメにマンガや小説などの原作があったときって、どうしてます?

「アニメも見るし、原作も読むよ。当たり前だろ?」という方。さすがです。眩しすぎて目が開けられません。

確かにそれが理想でしょう。でも実際のところすべての作品でそれをやるのは、時間的にも経済的にもツラいですよね。

大抵はどちらかを見て(もしくは読んで)から、もう片方も行くかどうか決めてるんじゃないかと思います。原作を読んで良かったらアニメも見てみる、もしくはアニメを見て良かったら、原作に戻ってみる、というパターンですね。

原作が先か、アニメが先か

ここでちょっと個人的な話をさせてもらうと、私の場合、原作を先に読んでいるときは、アニメも見ることが多いです。原作が常軌を逸しておもしろくないとかであれば別ですけど、そうでなければ大抵アニメにも手を出していきます。

一方で、アニメが先だった場合に、原作にまで手を伸ばすことは少ないです。ゼロではありませんが、よほど気に入った作品でない限り、原作も読んでみるということはありません。

どうしてそんな違いが出てしまうのかというと、これはシンプルにどのように映像化されているのか見たいからですね。

自分の知っているキャラクターがどんな風に動き、しゃべるのか。物語がどんな風に映像で表現されているのか。原作がマンガや小説だった場合、それが映像化された姿はやはり気になるところです。

でもアニメを先に見てしまうと、この種の興味は薄くなってしまいます。

元々動いていたものが、静止画になるとどうなるのか。「時間が止まるとどうなるか」みたいなことですが、どうでしょう、見たいですかね?

個人的には、それほどでもないです。

後から原作を読むときの動機はむしろ、「元々どう描かれていたのかが知りたい」になるんじゃないかと思います。

ただ、そこまでさかのぼって知りたい作品となると、今度はかなり限定されてしまうんですよね。原作にまで手を出すケースが少ない理由の一端も、ここにあるような気がします。

アニメの方が手軽

アニメの方が手軽というのも、原作→アニメの方が多い理由になっていると思います。テレビで放送されることもあれば、見放題サービスもあるアニメは、実は新しい作品を見るための追加の労力や投資がほとんど必要ないんですよね。

そのため原作を先に読んでいても、気軽にアニメに向かいやすいです。

これがマンガや小説となると、そうはいきません。アニメと同じような読み放題サービスもあるにはあるんですが、対象となっている作品は限定されていて、読みたいと思っている原作のマンガや小説は見つからないことの方が多いです。

そうなると追加で投資を必要とするケースが多くなってしまいますから、手軽さという点ではやっぱり劣りますよね。

このあたりの心理的なハードルの高さが、「アニメは見たけど原作は読んでない」が多くなってしまうにもつながっているような気がします。

マンガもアニメのように、月額550円で人気タイトルまで読み放題!とかのサービスがあれば、状況も変わってくるのかもしれません。

『さよなら私のクラマー』は原作が先?アニメが先?

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ここまでの話は私の個人的な事情なので、「それ全然わかんない」という人や「意味が伝達してこない」という人、あるいは手軽な方を安易に選ぼうとしている態度に「それでも男ですか、この軟弱者!」とビンタの一つも食らわせたいと思った人、いるかもしれません。

でも、もし私と同じような傾向のある人、「アニメ見ちゃうと原作は読む気しないんだよな」という人がいるとするなら、その人たちにおすすめする『さよなら私のクラマー』への入り方は原作が先です。

ここは間違わない方がいいと思います。というのも、この作品の良さは、原作に詰まっているからです。

『さよなら私のクラマー』概要

ここで少し、『さよなら私のクラマー』がどんな話なのかを紹介しておきましょう。

さよなら私のクラマー』が取り上げているのは女子サッカー、それも高校年代の女子サッカー部です。

弱小校だった埼玉県立蕨青南高校女子サッカー部に、

  • 中学時代、全国大会で実績を残している
  • 能力は高いけど、周囲に恵まれていなかった
  • 女子サッカー部ではなく男子に交じってサッカーをしていた

といった、バラエティに富んだ新入生たちが入部してきて、彼女たちを中心にチームが強くなっていく、という物語です。

まあ、王道の「部活もの」です。基本はそうなんですが、その強くなっていく過程がとにかくいい。

それと、本作には他とちょっと違う点もあります。それは女子サッカーという競技そのものに対する視点がある、ということです。

男子と比較すると、女子のサッカーは人気も注目度もどうしても低くなりがちです。特に『さよなら私のクラマー』が連載されていた2016年から2021年という時期は、2011年に果たしたワールドカップ優勝の余韻がそろそろ冷めて、女子サッカーの人気低迷が顕著に見えてきた頃でもありました。

そうした女子サッカーの厳しい状況は、作品にも反映されています。「女子サッカーに未来はあるのか?」と口にする大人や、現状を憂えて、何とか打破したいと思っている選手なんかが登場します。

作品を通して描かれているのは、真摯に、懸命に競技に取り組む若い選手たちの姿。そこで輝くまばゆいばかりの才能たちであり、そこから感じられる女子サッカーへのエールが胸を打つんですよね。

王道の「部活もの」でありながら、主人公たちの学校だけでない、競技全体への視点も備えている。そこが『さよなら私のクラマー』という作品の大きな特徴だと思います。

すべてがアニメ化されているわけではない

さよなら私のクラマー』の原作は、全部で14巻あります。

このうちアニメ化されているのは5巻までで、全体の半分にも達していません(厳密には、一部6巻の内容も含んではいるのですが)。

これは非常に残念な事実です。何故なら『さよなら私のクラマー』がおもしろくなってくるのは、この6巻以降だからです。

この書き方だと、5巻まではつまらない、と言っているように見えるかもしれません。でももちろんそんなことはなく、5巻までも十分おもしろいです。それが加速していくのが6巻以降ということであって、だからこそ、6巻より先も読んでほしい。

これについては、アニメを先に見た人も同じです。アニメの続きとして、原作6巻以降をぜひ読んでいただきたい。

ただちょっと注意が必要なのは、アニメと原作は完全に一致しているわけではない、という点です。一部エピソードが入れ替わっている個所なんかもあるので、「アニメを先に見て、原作は6巻から読む」を実践しようとすると頭の中で多少の補完が必要になります。

大筋は同じなので、ストーリーがよくわからなくなってしまう、ということはないと思います。ただ、そうは言ってもスムーズでないことは確かなので、もしまだアニメも見ていない、というのであれば、やはり先に原作を1巻から読むのがおすすめですね。

その方があんこのぎっしり詰まった『さよなら私のクラマー』という作品を、頭のてっぺんから尻尾の先まで楽しめるはずです。

アニメはどうだったのか

アニメ『さよなら私のクラマー』は、基本的には原作を踏襲しています。

一部、原作になかった要素が付け加えられてはいるものの、負けていたはずの試合で勝ってるとか、見たこともないキャラクターが登場してスポット的に活躍をかますとか、登場人物の性格が全然違っているみたいなことはありません。

ストーリーの改変が気になって、本来見たかった「原作をどんな風に映像化しているか」が全然わからない、みたいなことにはならないので、安心してください。

個人的に気になっていたのはサッカーのシーンなんですが、これもそんなに違和感のあるものにはなっていませんでした。

動きの激しいスポーツに感じる不安

これは私だけなのかもしれないのですが、バスケやサッカーのような動きの激しいスポーツをアニメにしたときって、競技の場面に不自然さを感じてしまうことが少なくないんですよね。

動きがおかしい、というのではないんです。細かく分解していくと動きは確かにそのスポーツらしさが出ているんですが、それを連続してみたときに「あれ?」と感じることがある。

間や時間の取り方なんかが、違うのかもしれません。

もちろん、すべての作品でそれを感じるわけではないです。『さよなら私のクラマー』も、見る前こそ不安を感じはしたものの、実際にはそれほど違和感を覚えるものではありませんでした。

ただ、原作と比較すると、この部分で軍配が上がるのは原作だったかな、と思いました。

瞬間を切り取り、少ない線で描く

動きの激しいサッカーのようなスポーツで、動画のアニメより静止画のマンガの方がより「サッカーらしさ」を感じた、というのも不思議な話に聞こえるかもしれません。

ただ、これについても原作を読んでいただければ、納得していただけるんじゃないかと思います。

ボールを蹴るときや蹴った後、ターンをしたとき、ボールを追って走りながら相手と競り合いをしているとき。

サッカーをしているときに生じる様々な瞬間を、原作では見事に切り取っています。サッカーが好きな人ほど、「確かに、こういう場面あるよね」と感じるんじゃないでしょうか。

さらに本作が優れているのは、そうした場面を最小限の線で描いているところです。無駄のない、削ぎ落とされた表現からは、非常に洗練されたものを感じます。

印象的なコマは、アニメでもそのまま使われてはいました。ただやっぱり、これについては原作で見るのが一番良いと思います。

『さよなら私のクラマー』まとめ

まとめ、というか、最後にもう一つ、アニメで気になったところを上げておきます。

メインキャラクターの一人に、曽志崎緑という蕨青南高校の一年生ボランチがいるのですが、この選手の声がイメージよりも低めでした。

初めて聞いたときは、「あれ?こんな感じなの?」と思っちゃいました。アニメ化に伴うイメージのギャップとしては、古典的なヤツですね。

イメージと言っても私が勝手にしていたものなので、だからどうということもありません。すぐに慣れて違和感もなくなりましたし、何なら今は原作読み返すときもアニメの声で再生されているくらいです。

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この記事を書いた人

アニメとサッカーを見るのが好き。
累計視聴数は400本を超えていて、今も増え続けています。

作品を見て、感じたこと、考えたことを書いています。