『SHIROBAKO』感想・レビュー|「自分もこんな仕事がしたい!」と思わせてくれる良作

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SHIROBAKO』は、P.A.WORKSの「お仕事シリーズ」第二弾に位置づけられている作品です。

「お仕事シリーズ」
  1. 花咲くいろは』(2011年)
  2. SHIROBAKO』(2014年)
  3. サクラクエスト』(2017年)
  4. 白い砂のアクアトープ』(2021年)

「武蔵野アニメーション」という架空のアニメ制作会社で、「制作進行」を担当している一年目の社員宮森あおいが本作の主人公です。

設定からもわかる通り、描かれているのはアニメ制作の現場です。アニメの裏側、と言ってもいいのかもしれません。ただ、では業界に特有の事情ばかりが描かれているのか、というとそういうことはありません。

むしろ他の仕事にも共通するような内容の方が、多かったですね。

仕事に対する心構えとか、仕事をすることの本質みたいなものが感じられる作品になっているので、

  • これから仕事を始める人
  • 既に社会に出て、仕事をしている人

どちらにもおすすめできる作品だと思います。

アニメ制作の裏側を、アニメで描いている

SHIROBAKO』という作品のおもしろさは、アニメ制作の裏側を、アニメで描いているところなんだろうと思います。

普段我々が楽しんでいるアニメ作品が、どのように作られているのか。漏れ聞こえてくる情報から何となく知ってはいても、実際のところ何が行われているのかは、業界関係者以外はわかりませんよね。

SHIROBAKO』ではそれを当事者たちが見せてくれるわけですから、リアリティという点でこれ以上のものはないでしょう。

もちろん、すべてが現実というわけではなく、脚色あると思います。そのことも考慮に入れたうえで、個人的に印象的だったのは、二つの意味での「時間」でした。

「時間」的な制約の厳しさ

一つは「時間的な制約の厳しさ」です。

話には聞いたことがあったのですが、アニメ制作の現場はやはりスケジュールが厳しいことが多いようですね。

理由は取引先の不手際だったり、自分たちの作業の遅れだったり、作品へのこだわりだったりと様々ありましたが、とにかく最初から最後まで時間と戦っているような印象を受けました。

「時間がない」ことが常態化しているようにも見えましたが、フィクションであるアニメからでもそれが感じられるということは、これが現実何だろうと思います。

なかなか厳しい業界ですね。

労働「時間」の長さ

もう一つは、かなり長そうに見える労働「時間」です。

深夜まで働いているらしい姿が、何度も出てくるんですよね。

これの少し怖いところは、『SHIROBAKO』ではそのことが匂わせ程度にしか描かれていないのです。

  • 第3話で飛び出した「今日はって、もう日付変わってるけどな」という演出家・円のセリフ
  • 19時や20時に当たり前のようにセッティングされている作業
  • 第8話で仕事の後、姉や高校時代の友人たちと食事をするために宮森が訪れた居酒屋のテレビに映っていたのが、「世界の車窓から」を思わせる番組

というような状況から、どうやら夜遅くまで働いているらしい、ということは推測できます。

ただ、そのことを直接言及する場面はほとんどないのですね。

深夜まで働いていることに苦情を言う登場人物は、一人もいません。また、「匂わせ」こそあるものの、時計を描いて、現在が深夜であることをはっきり見せるようなカットもなかったと記憶しています。

でも、見ている方としては、この「わざわざ描かない」というところにかえって、

夜遅くまで働くことなんて、特別ではない。アニメ制作の現場では、ごくごく当たり前の状況だ。

という過酷さを感じてしまうんですよね。

普通の会社と違って、夜が遅い分、朝も遅いのかな、とも考えてみたのですが、宮森たちは毎日朝礼をやっているんですよね。ということは、朝が遅いというわけでもないのだと思います。

繰り返しになりますが、『SHIROBAKO』はフィクションです。当然、いくらかの脚色はされているはずです。

でももし、これが事実なのだとしたら、アニメ制作の仕事は、間違いなく激務に分類されると思いました。

どんな仕事にも共通する要素が描かれている

SHIROBAKO』のもう一つおもしろいところは、どんな仕事にも共通して言えることが描かれている点です。

そしてこれこそが、『SHIROBAKO』という作品の一番の魅力であると思います。

アニメ制作の仕事に限らない、「普遍の真理」みたいなものが作品のあちこちに散りばめられていて、視聴者の、おそらく大多数に当たるアニメとまったく関係のない仕事をしている人たちも共感できるような内容になっていました。

キャリアに関する悩み

アニメ制作以外の仕事にも共通する要素として印象的だったものの一つが、「キャリアに関する悩み」です。

SHIROBAKO』は、主人公宮森あおいの他に、高校時代、宮森と一緒にアニメ制作をしていた四人の若い女性が登場します。

宮森を含めた五人の夢は、将来一緒にアニメ作品を作ること。夢を叶えるために、それぞれがアニメ業界やアニメと関係の深い業界に就職します(最年少で、脚本家志望の今井みどりのみ大学生)。

ただ、宮森がまだ一年目であることからもわかる通り、社会人としての経験はまだまだ乏しいです。そのため、仕事について迷ったり、悩んだりすることもあるのですね。

アニメ制作の仕事だけに限らない

この迷いや悩みは、アニメ制作の仕事に限ったものというわけでもありません。

作品の中で描かれていたものの中には、

  • 自分の実力のなさに嫌気が差す、焦る
  • 今の仕事を続けていて、目指すところに辿り着けるのか悩む
  • 未来がまったく見えないことに不安を感じる
  • 目の前のことに手一杯で、先のことを考えていない自分に愕然とする

といったものがありましたが、同じような悩みや迷いは他の仕事をしていても生じるものだと思います。

二つ目の「今の仕事を続けていていいのか」や、最後の「目の前のことに手一杯」などは、誰もが一度は考えたことがあるんじゃないでしょうか?

このように畑違いの仕事していても「わかるなあ」とうなづけてしまう悩みや迷いが、『SHIROBAKO』という作品では描かれているんですよね。

先輩からの助言

SHIROBAKO』では、宮森たちが悩みや迷いを乗り越えていくところまでしっかりと描かれています。

その際、大きな助けとなるのが先輩たちの言葉です。こちらも良いものが多かったですね。

具体的には、第13話、前のオーディションで失敗し、自信を無くしていた宮森の高校時代の仲間で新人声優の坂木しずかに対して、養成所時代の講師である「先生」縦尾まりがかける言葉などがありました。

「あなたに足りないのは、自身と覚悟だね」

『SHIROBAKO』第13話

「失敗も貴重な財産でしょうが。若者が根拠のない自信を持たないで、何を持つんだっつーの」

『SHIROBAKO』第13話

これは本当にその通り。そしてこれも声優に限った話ではなく、どんな仕事にも共通して言えることなんですよね。

自信を無くしている若者が身近にいたら、この言葉をそのままかけてあげたいくらいだと思いました。

先達の言葉

直接的な助言ではない部分でも、『SHIROBAKO』ではベテランの言葉に印象的なものが多かったですね。

先達が何気なく口にした言葉の中に、

「仕事をするとは、どういうことか」

という問いに対する答えみたいなものが含まれているように感じました。

たくさんあって、全部を紹介したいところですが、ここでは一つに絞って、第19話、大倉工房の社長で、背景画の巨匠大倉が、仕事をしながら宮森に語った言葉を具体例として挙げます。

少し長いですが、良いセリフなのでぜひ最後まで読んでみてください。

「おれ、元々は映画の看板描きたかったんだ。でもなれなくて、なんだかんだでよくわからないまま、アニメに入ったんだ。そしたらアニメの背景がおもしろくなっちまって、佐賀森さんのとこ出てフリーになったときも、ちょうど朝立の話もらったときでな。(中略)そうやって気が付いたら四十年。人生って不思議だよな。ただ前に進んでいるだけなのに、いろいろな出会いがあって、そのたびごとに新しい世界が見えてくるんだ。おれさ、自分の進む先が最初から見えてたわけじゃないんだ。気が付くと、今ここにいる。それだけ」

『SHIROBAKO』第19話
  • 「朝立」:「朝立宇宙軍」の略。大倉が過去に参加したアニメ作品。

社会人としてある程度の経験を積んだ人であれば、思わずうなづいてしまう言葉なんじゃないでしょうか。

仕事に留まらず、「人生とは何か」という問いについての、一つの答えにもなっていますよね。

このように、胸にぐっと迫る言葉がとても多く登場するのが『SHIROBAKO』という作品の大きな魅力と感じました。

他にもたくさん出てきますが、セリフだけを抜き出して読むよりも、物語の中で触れた方がずっと心に響くと思います。

気になった方は、ぜひ一度ご覧になってみてください。

トラブルとその要因

他の仕事にも共通する要素としては、トラブルもありました。

SHIROBAKO』ではいくつものトラブルが発生しますが、これも多くがアニメ制作特有のもの、というわけではないのですね。

主な発生要因には、次のようなものがありました。

  • 下請けの仕事が雑
  • 同僚の仕事が適当
  • 連絡の不備によって生じる認識齟齬
  • 取引先からの無茶な要求

「取引先からの無茶な要求」などは、どの仕事にもあり得る話ですし、困った経験のある方も多いんじゃないかと思います。ここも、共感できるポイントの一つですね。

物語で描かれているのは降りかかる困難を乗り越えていく姿ですが、『SHIROBAKO』ではここでも心を打つセリフが多く見られました。

トラブル発生時の心構え

印象に残った例を一つだけ挙げると、第23話「続・ちゃぶ台返し」での、「武蔵野アニメーション」の看板アニメーター・小笠原綸子の言葉があります。

サブタイトルそのままにちゃぶ台返しが起こってしまった際、スケジュールに間に合うか不安を感じたスタッフに、小笠原は次のように伝えます。

「不安になっても、状況は変わりません。あらゆる最悪を想定しつつ、気楽に構えましょう」

『SHIROBAKO』第23話より

至言ですね。

これもどの仕事にも共通する、トラブル時の基本的な心構えだと思います。

自分も胸に刻みたいくらいの言葉でした。

仕事にかける情熱

SHIROBAKO』から感じる魅力の一つに、仕事にかける情熱もあったと思います。

作品にかける情熱、と言い換えてもいいかもしれません。「いい作品を作りたい」という気持ちが、アニメ制作にかかわる多くの登場人物たちから感じられるんですよね。

だからこそ、深夜まで働くことを苦にしないし、せっかく出来上がったものを、納得いかない部分があるから作り直す、ということもできるのだと思います。

ここまで、他の仕事にも通じる部分を『SHIROBAKO』という作品の魅力と書いてきました。ただ、この「仕事に対する熱量」については、「作品制作」特有のものであるのかもしれません。

すべての仕事で同じことが言えるか、というとそうでもなく、その点については少しうらやましさも感じましたね

アニメ制作以外の仕事との対比

この部分は、第8話と第9話、地元の信金職員として働いている宮森の姉が、東京にやってくるエピソードに少しだけ現れていたようにも思います。

激務ではないけれど、情熱もない姉の仕事と、忙しいけれど、「アニメを作る」という目標に向かって熱量に溢れている宮森の仕事。二つが対比的に描かれていました。

アニメ制作にかかわる内容が大半で、他の業界についての言及はあまりされない『SHIROBAKO』ですが、ここは珍しいところだったのではないかと思います。

姉の仕事について描かれていたのは日常的な職場の様子だけで、それに対する否定的な言及が、姉自身を含めた誰かからなされたわけではありません。

それでも、「どうせ働くなら、大変でも情熱を傾けられる仕事をしたい」と思わされるエピソードではありました。

最も心に残った場面

最後に、『SHIROBAKO』の最も心に残った場面の一つを紹介しておきます。

それは、第23話『続・ちゃぶ台返し』のラストシーン。

アフレコ現場に立ち会った宮森が、思わぬ人物の登場に驚くところからの演出がすばらしく、心を揺さぶられます。

良い作品には「ここは絶対に見てほしい」という場面があることが多いですが、『SHIROBAKO』はまさにここでした。

この場面だけでも、『SHIROBAKO』には一見の価値があると思います。

SHIROBAKO

放送2014年
劇場版:2020年
話数全24話
制作P.A.WORKS
監督水島努
シリーズ構成横手美智子
キャスト木村珠莉
佳村はるか
千菅春香
髙野麻美
大和田仁美
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この記事を書いた人

アニメとサッカーを見るのが好き。
累計視聴数は400本を超えていて、今も増え続けています。

作品を見て、感じたこと、考えたことを書いています。