「掘り起こし系」のきっかけはあの作品?『スプリガン』を見て考えたこと【感想・レビュー】

スプリガン
david production 2022
監督:小林寛
原作:たかしげ宙、皆川亮二
シリーズ構成:瀬古浩司
音楽:岩崎太整
総作画監督:半田修平
キャスト:小林千晃・浜田賢二・伊瀬茉莉也・阿座上洋平・子安武人
OPテーマ:
 Seeking the Truth feat. YAHZARAH/岩崎太整
EDテーマ:
  Ancient Creations feat. Shing02/岩崎太整

昔のマンガやアニメを掘り起こしてきてアニメ化したり、リメイクしたりするケース、近年増えている気がします。今回取り上げる『スプリガン』も、そうですね。原作が連載されていたのは、1989年から1996年でした。元号にすると、平成元年から平成8年の間になります。平成でも初期の頃ですね。

本作が初めて世に出たのは2022年ですから、原作の連載終了から実に26年の歳月が経過していることになります。これはもう、立派な掘り起こしと言っていいでしょう。「掘り起こし系」の作品です。

「そんな昔のマンガを引っ張り出してこないといけないほど、今はアニメの原作って少ないの?」

そんな疑問も浮かばなくはないですが、放送されている作品を見ている限り、あまり正確な指摘ではなさそうに思えます。連載中のマンガや小説を原作とする新作アニメ、いくらでもありますからね。

じゃあ何で、とっくの昔に終了した作品を令和の世の中にわざわざ持ち出してくるのか?

月並みですが、これはもう、

  • 根強いファンがいて、需要が期待できる
  • 名作は、時代を超えて楽しめる

というのが理由なんじゃないかと思います。中でも特に、前者の「古い作品にも需要がある」というのがわかってきたのって、2010年前後なんじゃないかという気がするんですよね。その頃から、「掘り起こし系」の作品が増えてきているような印象があります。

きっかけは『ドラゴンボール』?

これはあくまで私の個人的な考えなのですが、「掘り起こし系」の作品が増えてきているのって、2009年に放送が始まった『ドラゴンボール改』がきっかけだったように思います。

知らない方向けに紹介しておくと、『ドラゴンボール改』というのは、1989年から96年にかけて放送された『ドラゴンボールZ』の再編集版です。

日曜日の朝9時台、フジテレビ系でアニメを放送している枠の中で放送されました。実際にはデジタルリマスターされていたり、音声が再録されていたりと『Z』そのままではないのですが、基本的な内容は『Z』と同じです。というより、原作と同じといった方がいいのかもしれません。

『ドラゴンボールZ』を語るときによく指摘されるのが、「引き延ばしが異様に多い」という点です。「アニメが原作連載に追いついてしまったため、時間稼ぎをしなければならなかった」という、今思うと信じられないような事実が理由だったりするのですが、『改』ではそうした部分が修正されていました。すなわち、オリジナルの『Z』よりも原作に近くなっていたのが、『改』だったわけですね。

とはいえ、『ドラゴンボール』です。原作の連載は『改』放送開始から14年も前の、1995年に終了しています。『ドラゴンボール』は『Z』の後にも『ドラゴンボールGT』というアニメオリジナルのシリーズが放送されているのですが、それすらも1997年には終了している。以降、テレビシリーズは制作されていません。

テレビゲームなどでの展開は続いていましたが、テレビアニメとしての放送は、『GT』終了から数えても12年ぶりということになります。12年と言えば、生まれたばかりの子どもが小学校を卒業するまでに成長する長い年月ですからね。

これはもう、立派な「掘り起こし系」と呼んでいいんじゃないかと思います。

『ドラゴンボール改』は成功した?

日曜朝9時台という、深夜と比較するとひと目に触れる機会の多い時間帯に、リメイクですらない再編集版を放送する、というのは、なかなかの冒険だったと思います。

でもまあ、うまくいったんでしょうね。何しろ、2011年に人造人間・セル篇まで放送した3年後に、第2期として魔人ブウ編を放送しているくらいですからね。

そしてこの『ドラゴンボール改』がうまくいったことが、「昔の作品、今でも行けるんじゃないの?」という気付きになったんじゃないか、と思います。というのも、この作品の後から、雨後の筍のごとく「掘り起こし系」が増えてきたように思うからです。

『ドラゴンボール改』の第一期が放送されていたのは、2009年から2011年にかけてでした。2010年前後、そのままなんですよね。

もう一つのきっかけが『ジョジョの奇妙な冒険』

もう一つ、この流れで大きかったんじゃないかと個人的に思っているのは、『ジョジョの奇妙な冒険』のテレビアニメ化です。

『ジョジョ』は、他の「掘り起こし系」とはちょっと違っています。というのも、テレビアニメが始まった2012年どころか、それから10年以上が経過した現在(この記事を書いているのは2023年11月です)もまだ連載が続いているからです。

本記事でイメージている「掘り起こし系」とは、「原作および(制作されている場合は)テレビアニメがずっと昔に終了している作品の、アニメ化・再アニメ化作品」です。今も連載が続いている『ジョジョ』は、当然これに当てはまりません。

ただ、『ジョジョの奇妙な冒険』には、1986年の連載開始以来、同じ人物が主人公を務め続けているわけではない、という特徴があります。第〇部のような章立てがされていて、各部で時代と主人公が変わっていく物語となっているんですよね(2023年11月時点では、第九部が連載中)。

『ファントムブラッド』という副題が付けられている第一部の主人公は、ジョナサン・ジョースターというイギリス人男性でした。連載期間は、1986年から1987年です。

第二部の副題は『戦闘潮流』。こちらは第一部から50年後が舞台となっていて、主人公はジョナサンの孫ジョセフ・ジョースターです。連載は第一部完結直後から始まっていて、1989年に終了しました。

ここで、強引さを承知の上で、この『ジョジョの奇妙な冒険』の各部を独立した物語と考えてみます。すると第一部『ファントムブラッド』は1987年に、第二部『戦闘潮流』は1989年に終了していることになります。

2012年に始まったテレビアニメ『ジョジョ』の1stシーズンは、まさにこの第一部と第二部が対象でしたから、原作完結から、第一部で25年、第二部でも23年が経過していることになります。

そうするとこれもまた、立派な「掘り起こし系」と言えるんじゃないかと思います。

この『ジョジョ』も、やっぱり成功だったと思うんですよね。『ドラゴンボール改』と同じように2ndシーズンが制作され、その後、3rdシーズン、4thシーズンと続いていきました。2023年11月時点では、第六部までテレビアニメ化されています。

『ジョジョの奇妙な冒険』は、実は過去にもOVAや劇場版アニメが制作されていました。しかしテレビアニメは初めてで、ここが『ドラゴンボール改』との違いだったと思います。『ジョジョ』の成功によって「過去にテレビアニメ化されていない作品も、掘り起こしはいける」という事実に気付かされたんじゃないかと思うんですよね。

認識としては、こんな感じでしょうか

  • 過去にテレビアニメ化されている作品 →『ドラゴンボール改』が成功例
  • 過去にテレビアニメ化されていない作品 →『ジョジョの奇妙な冒険』が成功例

『ジョジョの奇妙な冒険』のテレビアニメが始まったのも2012年ですから、やっぱり「2010年前後」なんですよね。

「掘り起こし系」の『スプリガン』

20年以上前に原作が終了している作品の、テレビアニメ化やリメイクの流れは今も続いています。2020年代に入ってから放送・公開された(されている)作品だけでも、すぐに次の4つが思い当たります。

  • ダイの大冒険(2020年)
  • うる星やつら(2022年)
  • スラムダンク(2022年)
  • るろうに剣心(2023年)

いずれも原作は1980~90年代の連載で、21世紀になる前に完結しています。『スラムダンク』だけテレビアニメじゃなく劇場版ですけど(『THE FIRST SLAM DUNK』)、話題性を考えるとテレビアニメ並の知名度はあったと言っていいでしょう。

この『スラムダンク』と『ダイ』『るろうに』は、『ドラゴンボール』や『ジョジョ』と一緒に90年代前半のジャンプ黄金期を彩った作品たちでもあります。今の三十代半ば~四十代半ばくらいが直撃世代ですね。このあたりの層を狙っている感じもなくはないです。

ただ、それ以上に、元々の作品の質の高さ(おもしろさ)の方が強いんじゃないでしょうか。どの作品も、今でも十分魅力的だと思うんですよね。

『スプリガン』について

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さて、『スプリガン』です。原作の連載期間は1980年代末~90年代半ばです。本作以前のアニメ化は、1998年公開の劇場版があるだけなので、立派な「掘り起こし系」と呼んでいいでしょう。

なお、厳密な意味でのテレビシリーズは、今も未制作と言えるのかもしれません。

一応、本作は2023年の夏アニメとして、テレビ放送されました。ただ、元々はNetflixの配信用オリジナルアニメとして制作されたもので、フォーマットは1話60分の全6話なんですよね。

テレビ放送時は1話30分の全12話構成に仕立て直されていましたが、終盤に向けた収束感などがなく、テレビアニメというよりOVAに近い印象の作品になっていました。

技術のアップデート

「掘り起こし系」の作品で一つ気になるところが、技術レベルを原作連載当時のままにするか、現代のレベルまでアップデートするか、という問題です。

「掘り起こし系」の場合、原作が連載されていたのが20年以上前だったりしますからね。原作をそのままアニメ化すると、技術的にかなり時代を感じてしまう場合もあります。

しかし一方で、古くてもいいからそのままアニメ化してほしい、という原作ファンの声もあるんじゃないかと思います。『うる星やつら』のように、あえてアップデートしないことで原作の雰囲気を色濃く残している作品なんかもありますしね。

このあたりの感じ方は、原作を読んでいるかいないか、が重要なのかもしれません。『スプリガン』は「アップデートしている方」の作品でしたが(技術だけでなく、時代そのものが配信開始当時と同じ、2020年代になっているように見えました)、違和感などは特に感じませんでした。

カメラ付きドローンのように、ストーリーに関係する部分でも使われているものもありましたが、問題なかったと思います。

ただ、実は私、原作を読んでいないんですよね。それでもアップデートされている、とわかるのは、スマホやタブレットのような、原作連載当時には一般的ではなかった技術が当たり前のように登場しているからなのですが、原作ファンにとってそれが受け入れられるものなのかどうかはよくわかりません。

でもまあ技術が古いままだと、原作を知らない人なんかは首を傾げたくなるでしょうし、その理由を調べたりしないといけなくなりますからね。小さい手間ですが、そういうストレスをなくすという意味ではアップデートしておいた方が受け容れやすいようには思いました。

「ターゲットは原作ファンだけだ!」というのならそんな気遣いは無用かもしれないですけど、さすがにそれはないでしょうしね。

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この記事を書いた人

アニメとサッカーを見るのが好き。
累計視聴数は400本を超えていて、今も増え続けています。

作品を見て、感じたこと、考えたことを書いています。