『大雪海のカイナ』感想・レビュー|雪海に水はない?独特の世界観とキャラクターが魅力のCG作品

大雪海のカイナ
ポリゴン・ピクチュアズ 2023
監督:安藤裕章
原作:弐瓶勉(東亜重工)
シリーズ構成:村井さだゆき
脚本:村井さだゆき・山田哲哉
キャラクターデザイン:福士亮平・小谷杏子
音楽:KOHTA YAMAMOTO・馬瀬みさき
キャスト:細谷佳正・高橋李依・村瀬歩・坂本真綾・小西克幸

大雪海のカイナ』は2023年1月から3月までフジテレビほかで放送された、ポリゴン・ピクチュアズ制作のテレビアニメです。

原作は、『シドニアの騎士』の弐瓶勉。『シドニア』同様、時間的・空間的なスケールを感じさせる作品となっていました。

ただ、『シドニア』と違って、原作者本人による漫画があるわけではないんですよね。

漫画版も存在してはいるのですが、描いているのは武本糸会です。弐瓶勉は、こちらでも原作者という立場でかかわっています。

本作はポリゴン・ピクチュアズ制作なので、3DCG作品です。

全11話と、1クールとしても少々短めではありますが、テレビシリーズだけですべてが描かれたわけではないように見えました。

この点については、劇場版が『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』のタイトルで2023年10月に公開されることが発表されているため、そちらで未解消の部分が解決されるんだと思います。

本作が気に入ったら、劇場版もチェックしておきたいところです。

『大雪海のカイナ』概要

大雪海のカイナ』の舞台は、地表が「雪海」で覆われ、「天膜」によって空が塞がれた異世界です。

この世界には「軌道樹」と呼ばれる、天膜を突き破ってその先まで達するような巨木が各地に存在していて、人々はその軌道樹に寄り添うようにして暮らしています。

というのも、この世界の人々は軌道樹から水を得ているからです。

雪海にも、そして天膜の上にも人はいます。しかし雪海の住民は天膜にも人が住んでいることを知らず、また天膜の住民は雪海に人がいることを知りません。

本作の主人公カイナは、天膜の上で年寄りたちとともに暮らしていました。そこにある日、雪海から一人の少女が登ってきます。

少女の名前は、リリハ。彼女は雪海にある国アトランドの王女で、天膜にいるという賢者を探すために、軌道樹を登ってきていたのでした。

雪海では水をめぐる争いが起こっており、リリハの祖国アトランドもその危機に晒されています。それを止めるために、天膜の賢者に助けを求めに来た、と言うリリハ。

そんなリリハに、カイナは協力することになります。

『大雪海のカイナ』の魅力1:リリハの「たくましさ」

大雪海のカイナ』の見どころの一つは、ヒロインのリリハです。

彼女の魅力は、ひと言で言ってしまうと「たくましさ」ということになるように思います。

既にご紹介した通り、彼女は雪海の国アトランドの王女です。

でも彼女は、世間知らずで何もできないお姫様というわけではありません。

それは、雪海の人々が直面している水不足という問題を解決するために、軌道樹を登ってきてしまうという物語冒頭の行動に、既に現れています。

「軌道樹を登る」というのは、誰もが気軽に行えることではありません。雪海に暮らす人々は、天膜に人がいることを知らなかったくらいですからね。

それを天膜には賢者がいる、という何の確証もない言い伝えを信じて実行しまうのが、リリハです。

バルギアの捕虜になってしまったときにも、彼女のたくましさは発揮されます。

バルギアとは水を狙って他国を侵略する雪海の国で、リリハの祖国アトランドは次のターゲットになっています。

リリハにとっては敵対する国であり、その捕虜になってしまうということは自らの命が危機にさらされているということにもなります。ですが、王女であるリリハは卑屈な命乞いをしたりはしません。

それどころか、尋問にやってきたバルギアの士官アメロテ相手にありもしない話をでっちあげて、はったりをかますような真似までしてみせるのですね。

リリハのビジュアルには、髪型の印象なのか、どこか幼さを感じさせるところがあります。

実際、カイナとのやり取りの中では年相応の恥じらいを見せることもあるのですが、ここぞというときに見せる王族らしい気高さと、並の王女ではないと感じさせるしたたかさは、容姿から受けるイメージを覆すものとなっています。

たくましさを支える聡明さ

リリハから受けるもう一つの印象は、聡明さです。

物語の序盤、天膜まで登ってきた理由をカイナや年寄りたちに話す場面で、それは感じられます。

リリハはバルギアを撃退して、危機に陥った祖国アトランドを救えばいいとだけは考えていないのですね。争いの元となっている雪海の水不足を解決したいと考えて、天膜まで登ってきているのです。

目の前にある危機にだけ対処しようとするのではなく、問題を根本から解決しようとしている。

その態度は、聡明さの一つの現れと言っていいでしょう。

これ以外にもリリハには、捕らわれの身から脱出する際に裏をかいたり、相手の意図を正確に読み取ったりといった頭の良さを感じさせる場面が何度も登場します。

そしてこの聡明さが、リリハの魅力であるたくましさを支えているようにも感じられます。

『大雪海のカイナ』の魅力2:一途なカイナ

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大雪海のカイナ』のもう一つの魅力は、主人公のカイナです。

彼もまた、好感度の高いキャラクターです。

リリハと比較すると、カイナの主張は控えめに映ります。それはカイナが自分の意思よりも、「リリハのために」という思いが強いからだと思われます。

リリハのためなら、危険や困難を顧みないのがカイナなのですね。

ただしカイナは、他の人にはない特殊な能力を備えた存在、というわけではありません。

天膜で生まれ育ったという点こそ、他の多くの登場人物との違いではあるものの、能力面は雪海で暮らす人々と何ら変わるところがなく、言ってしまえば普通の人間です。

ですから、「リリハのために」の行動もそんなに簡単なものとはなりません。

でもカイナは、それをまったく厭うことはしません。自らの身を危険に晒す可能性もあるのですが、それすらも、ためらいもしないのですね。

「リリハのため」なら、彼は迷うことなく行動します。

そして実際に、何度もリリハを救います。

天幕育ちの純朴さが与える好印象

「どうしてそこまでリリハに尽くすのか。何か、下心があるのではないか」

キャラクターによっては、そうした疑念が生じる場合もあります。

ですが、カイナに関しては、それはまったく感じません。

これについては、人の少ない天膜で、年寄りたちと暮らしていたという彼の生い立ちが関係しているのでしょう。

カイナは非常に純朴で、裏表がないのですね。

「リリハのために」という思いも純粋なものであり、見返りを求めるようなところがありません。

そこがまた、彼の好印象につながっています。

そういうカイナにリリハが惹かれていくのもある意味必然で、そこがまた本作の見どころの一つになっています。

『大雪海のカイナ』の魅力3:独特の世界観

大雪海のカイナ』は、独特の世界観を持った作品です。

  • 雪海に覆われた地表
  • 天まで届く軌道樹
  • 空いっぱいに広がる天膜

といった設定は、それに当たるでしょう。

文字が既に失われている、というのも珍しいところかもしれません。

本作が描くのはいわゆる「滅びの世界」で、かつて築かれていたことがうかがえる高度な文明の多くは既に失われてしまっていますが、その中に文字も含まれているのですね。

ここで少しおもしろいのは、その失われた文字を学ぶのに利用しているのが、古い看板であるところです。

大雪海のカイナ』の世界では、本や文書は存在していません。その代わりとして、文字を学ぶのに利用されているのが、かつて使われていたであろう古い看板です。

ですが、看板ですからね。

文字と言っても書かれているのは、何かの案内や「落下物に注意」などの警告です。

それ単体ではあまり意味をなさないものですし、立派な文章でもありません。

それを重要な古文書か何かででもあるかのように大真面目で読み上げている姿には、滑稽さを感じさせるものがあります。

「雪海」は海ではない

大雪海のカイナ』でもう一つ特徴的なところは、雪海が実際には我々の知っている海ではないことです。

雪海は、水が溜まってできたものではないのですね。

「雪」も「海」も、水を連想させる言葉です。それで錯覚させられてしまうのですが、実際のところ本作では、雪も雪海も水ではない、他の物質からできたものなのですね。

ただ、よく考えてみればそれも当たり前で、もし雪海が水からできたものなのであれば、水不足などという問題が発生しているはずもありません。

地表の大半を覆う雪海が水でできているのであれば、それを利用すればいいからです。

雪海が水からできたものでないことは、映像表現としては何度も登場します。

雪海馬や船が雪海を移動する際の飛沫が、我々の知っている流体ではなく硬質なボールのような姿をしていますし、雪海に落ちても身体は濡れません。

ただし、それが物語の中で、言葉を使って説明されることはないのですね。

それも考えてみれば当然のことで『大雪海のカイナ』の世界の人たちにとって雪海が水からできていないというのは、説明の必要がない、当たり前の事実だからです。

しかし、見ている我々はそうはいかないですよね。「雪海」という単語から、水でできていると錯覚してしまうことになります。

ここは少しだけ、読解力が求められるところかもしれません。映像から読み取るしかないですからね。

ただ、この雪海に対する錯覚交じりの感覚も、本作の一つのおもしろさであるようには思いました。

『大雪海のカイナ』まとめ

大雪海のカイナ』は、滅びを思わせる独特の世界観を持つ作品です。

本作の魅力はキャラクターですね。特にたくましさを感じさせるリリハと、特別な能力はないながらも彼女のために献身するカイナが良いですね。

惹かれあう二人の関係も、見どころです。

全11話と短めの作品なので、全部見るのにそれほど時間はかかりません。

一部回収しきれていない伏線は、2023年10月に公開が予定されている劇場版に期待です。

大雪海のカイナ』が気になった方は、各種配信サービスでチェックしてみてください。

アマゾンプライムビデオのお試し期間を利用すれば、無料で視聴することもできると思います。

タイトル『大雪海のカイナ』
放送2023年1月12日 -2023年3月23日
放送局フジテレビほか
話数全11話
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この記事を書いた人

アニメとサッカーを見るのが好き。
累計視聴数は400本を超えていて、今も増え続けています。

作品を見て、感じたこと、考えたことを書いています。