『メイドインアビス』感想・レビュー|かわいいキャラクターと凄惨な映像が突き付けてくるものとは?

メイドインアビス
キネマシトラス 2017・2019・2020・2022
監督:小島正幸
原作:つくしあきひと
シリーズ構成:倉田英之
キャラクターデザイン:黄瀬和哉・黒田結
音楽:Kevin Penkin
キャスト:富田美憂・伊瀬茉莉也・井澤詩織・久野美咲・寺崎裕香
OPテーマ:
 第1期「Deep In Abyss」リコ(CV:富田美憂)・レグ(CV:伊瀬茉莉也)
 第2期「かたち」安月名莉子
EDテーマ:
 第1期 「旅の左手、最果ての右手」リコ(CV:富田美憂)・レグ(CV:伊瀬茉莉也)・ナナチ(CV:井澤詩織)
 第2期「Endless Embrace」MYTH & ROID

大分面食らう作品だった、というのが率直な感想です。

キービジュアルを見ると、キャラクターは結構かわいいんですよね。それでもっとほんわかした話を想像していたんですが、まったく違いました。

むしろ、エグいです。「このキャラクターでこんな話描く?」と言いたくなるような内容です。

劇場版は2作制作されていて、どちらも年齢制限ありになっているんですが、それも納得できます。2作目なんてアニメなのにR15+指定になってますが、それもやむなしと思ってしまいました。

ただ、ではキャラクターとのギャップや刺激の強い映像が売りの作品だったかというと、それは違うと明確に否定できます。刺激の強い映像にも、それを描くだけの意味があると感じました。

未視聴の方には、おすすめの作品です。

『メイドインアビス』概要

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タイトルにもある「アビス」というのは、ある島に開いた縦穴のことです。穴と言ってもモグラの穴みたいな細いものではなく、直径はおそらく1キロくらいあり、深さはどこまであるかまだわかっていないという巨大な代物です。

穴の中は、何もない空洞ではありません。草木が生え、生物が暮らしており、さらには「遺物」と呼ばれる未知の技術で作られた人工物も落ちています。

アビスは「人類に残された最後の秘境」。高い山があったら登り、深い海があったら潜ってしまうのが人間ですが、もちろんこのアビスにも潜ってしまう人たちが続出。作品の中でそんな命知らずたちは「探窟家」と呼ばれています。

この探窟家たちはアビスに潜る前にその周縁部を拠点にしていたようなのですが、それが拡大することでできあがったのがオースの街。『メイドインアビス』の主人公リコはこのオースの孤児院で暮らす少女で、彼女もまた探窟家を目指しています。

探窟家にはランクがあり、首から下げた笛で分けられています。リコはまだ見習いなので、赤笛笛には他に蒼笛、月笛、黒笛、そして最高位の白笛があり、リコの母親ライザはこの白笛の探窟家です。

母のような白笛に憧れているリコですが、今は見習いのためアビスの深いところまで下りていくことはできません。笛にはそれぞれ「限界深度」という潜れる限界の深さが設けられており、赤笛に許されているのは深界一層という一番浅いところまでだからです。

アビスの「呪い」

何故笛ごとに、「限界深度」なるものが設けられているのか。

アビスには、そこらに開いたただの穴とは大きな違いがあるからです。それは物語の中で「上昇負荷」とか「アビスの呪い」とか呼ばれているもので、アビスの中では、人間が上昇しようとすると、身体に謎の異常が発生するのです。

上昇というのは、文字通り上に昇るということです。坂を昇っても呪いは発動しますし、階段を昇っても起こります。発生する異常は深さによって違っていて、深界一層くらいだと軽いめまいや吐き気くらいで済みます。でも深海三層くらいになると幻覚や幻聴が起こり、四層まで潜ると全身の穴から謎の流血が起こったりします。六層まで来てしまうと人間性の喪失というとんでもないことになってしまい、人間の姿を保って昇っていくことは事実上不可能となります。

この「アビスの呪い」は、下に降りていくときには起こりません。降りるだけならどこまでも深く降りていくことができます。でも、戻ることができなくなるのですね。つまり、アビスの深部まで潜るということは、地上との別れを意味します。

普通の人間なら、好んでそんなところに潜っていこうとは考えません。何の罰ゲームだよ、って話です。でも探窟家たちは違っていて、とにかくアビスの深いところまで潜っていきたいと考えている。そうした彼らの無謀さの原動力になっているものは、アビスの底に何があるのか知りたい、という好奇心です。

「奈落の底で待つ」

リコもやはり、そうした探窟家の一人です。

まだ見習いの赤笛ですが、より深いところに潜ることを目指しています。

そんなリコがある日の探窟で見つけるのが、人間の男の子そっくりの姿をしたロボット、レグです。

レグは、ほぼ人間です。姿だけでなく、会話などのコミュニケーションも、普通の男の子とまったく変わりがありません。ただ、リコに発見されたときには記憶を失っていて、自分が何者なのかも、何故そこで倒れていたのかも覚えていませんでした。

そんな謎の存在のレグですが、リコは友達として遇し、孤児院で一緒に暮らし始めます。時間とともに、孤児院での生活にも馴染み始めるレグ。

そんなとき、アビスから上がってきたのがリコの母、ライザからの便りでした。ライザは10年前にアビスの二度と戻れない深さまで潜っており、消息は不明となっています。

便りには、アビス深層部の様々な情報やレグに似たロボットの絵などとともに、「奈落の底で待つ」と書かれた紙が同封されていました。

それを目にしたリコは、レグとともにアビスの深層に潜ることを決意します。

『メイドインアビス』レビュー

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冒頭でも書きましたが、第一印象と内容が全然違う作品です。

アニメに第一印象というのもなかなかに謎の言葉ですが、ここではキービジュアルやキャラクターデザインなどから想像される作品のイメージだと思ってください。第一話を見る前に、勝手に想像している作品のイメージですね。

見ての通り、『メイドインアビス』のキャラクターはだいぶかわいらしい印象を与えるものになっています。リコもそうだし、レグもそう。「かわいい」よりも、「かわいらしい」の方がふさわしく感じられるくらいです。これについては頭身が低めで手足の末端が大きく、それが幼さを感じさせるせいなのだろうと思っていますが、リコは実年齢も10代前半なので、幼さを残していたとしてもそれほど不自然でなかったりします。

刺激強めの映像

そんなかわいらしいキャラクターたちが、不思議な穴の中を楽しく探検する物語、というのが、視聴前の私の想像でした。安易でしたね。『メイドインアビス』は、そんな軽い作品ではありません。見た目はフライ級でも、パンチはヘヴィ級です。

何が重いって、まずは映像ですね。アビス内部には、人に危害を加えるような生物がウヨウヨしています。探窟家たちは、いつも危険と隣り合わせ。アビスの生き物に襲われて怪我をしたり、命を落としたりすることもあるのですが、そうした場面を描くことにためらいがない。切り裂かれた傷口や、毒を受けて腫れあがった身体、腐敗した死体なんかを隠したり、ぼかしたりすることなく見せつけてきます。

アビスの危険と言えばもう一つ、呪いもあるのですがそれを受けたときの描写も同じ。嘔吐や吐血、失禁は直接的に描かれますし、深いところで受けた呪いで人体が崩壊する場面なんかも、はっきりと描いています。そしてまた、これがサブやモブキャラクターばかりでなく、リコに対しても同じなのがえぐいところです。主人公とはいっても、リコはまだ10代前半の少女です。まだ子どもといっていい年齢です。でも『メイドインアビス』は、子どもにも容赦はありません。

この手の描写で最もインパクトが強いのは、テレビ1期の第10話でした。リコがアビスの生物「タマウガチ」の毒を受けてしまうエピソードなんですが、これの治療の場面がものすごい。その内容は、壮絶のひと言に尽きます。

処置を担当するのはレグです。レグはロボットですが、医療用の特別な機能が備わっているわけではありません。リコももちろん医者でないため、医療用の器具などは持ってはおらず、原始的な手段で処置をするしかない状況に追い込まれます。これが強烈。

「アニメなんだから、そこはもう少しまろやかにしたり、具体的な描写はしなくてもいいんじゃないかな?」

なんていう甘っちょろさは、本作には通用しません。

毒を受けたリコ自身が指示する処置の内容を聞いただけで

「え、それ本当にやるの?」

と言いたくなるのですが、やります。そしてその場面も、隠さずはっきり描いています。その内容は、本作の他の場面と比較しても壮絶で、見ているこっちがちょっと気持ち悪くなってしまうくらいでした。もっと大人びたデザインのキャラクターが登場する作品でも、ここまで描いているものはそうはありません。

しかし一方で、「こんなに強烈にする必要あるんだろうか?」という疑問が浮かんだのも事実でした。

「世界の本当の姿」を見せつけてくる

「かわいいキャラクターが、不釣り合いなほど残酷な試練を与えられる」

見ている我々に強いインパクトを残したいがためだけにこうした描写が用いられている作品があったとしたら、それはほぼ間違いなく駄作です。そんな安易な手段でしか興味を引けないような作品なら、見る価値はないと言ってもいいでしょう。

では、『メイドインアビス』はどうなのか。

これについては、明確に違うと言えると思います。

先ほど、「ここまで強烈にする必要があるのだろうか?」と書きました。この疑問の答えは「ある」です。

メイドインアビス』を見ていて強く感じたのは、「世界の本当の姿を見せようとしている」というものです。

人間は、普段は社会の中で生きています。それは、人間が自分たちを生きやすくするために構築されたものであり、その中にいる限り、人間は守られています。何から守られているのかというと、社会の外部にある脅威からです。

その脅威は、人間社会で生きる限りにおいては隠されています。見えないようにフィルタをかけられている、と言ってもいいのかもしれません。そうすることで、我々は安全な暮らしを手に入れることができています。

しかし、その弊害として「世界の本当の姿」が見えなくなってもいます。我々が見ている世界は、社会というフィルタを通してみた姿であって、「世界の本当の姿」ではないんですよね。

でもアビスの中では、そのフィルタが機能しません。アビスは人間の手の及ばない領域だからです。そこでは、人間はむき出しのまま「世界」に放り出されます。そこで初めて、「世界の本当の姿」に直面することになります。

その事実を突き付けてくるのが、あの刺激の強い描写なんだろうと思います。

凄惨な場面を、隠さず、ぼかさず、目を逸らさずに描く。そうしなければ、「世界の本当の姿」が浮かび上がってきません。

だからこそ、『メイドインアビス』のあの生々しい描写が必要だったのだと思います。

過酷な運命と向き合う姿が心に響く

人間は、アビスの中にむき出しで放り出される。その結果あらわになるものの一つに、欠如した人間性があります。

欠如した人間性。不穏な響きを持つ言葉ですが、『メイドインアビス』という作品には頭がおかしいとしか思えないボンドルドやワズキャンといった人物が登場します。

人を人とも思っていないような彼らは、自らの目的や欲求のために平気で非人道的な行いをします。それらはどれも「吐き気をもよおす」という表現がぴったりの邪悪な行為で、地上であればとがめられ、裁かれることもあったでしょう。

しかしアビスの中では、そうはなりません。倫理も正義も人間社会が作り出したものでしかなく、アビスの中では通用しないからです。

この部分もまた、『メイドインアビス』のすさまじさです。

彼らの被害者となってしまうのが、メインキャラクターの一人、ナナチであり、テレビ2期『烈日の黄金郷』のもう一人の主人公といってもいいヴエコです。身勝手な人間たちによって、理不尽な運命を押し付けられてしまうのですね。また二人とは少し事情が異なるものの、理不尽な運命という点では主人公のリコも同じです。彼女もまた、望まない重い運命を背負わされています。

彼らが運命と向き合う姿も、『メイドインアビス』で印象的な部分の一つです。

特に目を引いたのは、リコの態度でした。彼女は生い立ちに大きな秘密を抱えていて、それは第1期の途中で明らかにされます。リコ自身も知らなかったその真実は、自分という存在に疑問を抱かざるを得なくなるほどに強烈です。正直、十代前半の主人公の少女に負わせるようなものなのか、とも思いました。

しかし、ここがリコというキャラクターのすごいところなのですが、彼女はそれを決してネガティブには捕らえません。そんな気の持ち方次第で何とかなるような話ではないのですが、自らに与えられた運命に落ち込んだりせず、むしろそれを「奇跡」としてポジティブに受け取ります。

リコは少々風変わりな人物として描かれていて、共感しにくいところもなくはないのですが、このたくましさは作品の特徴の一つです。この暗い強靭なメンタルの持ち主でなければ、アビスの過酷な環境ではやっていけないということなのかもしれませんが。

一方、ナナチやヴエコはもっと苦しみます。乗り越えたり、乗り越えきれなかったり、目を逸らしてしまったり、逆戻りしてしまったりもするのですが、これはこれで人間らしいと言えるのかもしれません。

欲望は生きることそのもの

アビスには呪いがあります。深いところまで潜ったら帰ってこれないですし、危険な生物もうようよしています。

そんなところに自ら望んで潜るなんて、正気の沙汰ではありません。でも、『メイドインアビス』の登場人物たちは潜ってしまいます。アビスとは何なのか、その底に何があるのか、知りたい。自分の目で確かめてみたい。そうした衝動、欲求に突き動かされてしまうわけです。

ボンドルドのように、それが悪い形で表れてしまっている人物もいるにはいます。でも、欲望とか欲求って、実際には否定されるようなものではないんですよね。欲は命に張りを与えますし、欲があるから生きていけるようなところもあります。生命力の源泉と言ってもいいくらいかもしれません。

メイドインアビス』の探窟家たちは、その欲求・欲望に素直に従っている人たちと見ることもできるでしょう。そういう意味では、彼ら自身が既に「むき出しの存在」なのかもしれません。

食べることは生きること

メイドインアビス』で印象的なのは、食事の場面が多く出てくるという点です。

特徴的なのは、食べるところだけでなく、食材の段階から描いているところ。

調理といっても、食料は基本現地調達なので、材料はアビスの生物です。それを捕まえて、解体した上で煮たり焼いたりした上で食べます。アビスの生物は正体不明なものが多いですし、中には死んだ人間の肉を食べているものもいたりします。レグはそれを考えて怯んでしまうのですが、リコはそんなこと気にしません。

ここもリコのたくましさと生命力(というのも、彼女の真実を知ると少し変な話になるのですが)が感じられる部分です。そしてまた、この食べるという行為も、人間の巨大な「欲」の一つですね。

「食べることは生きること」なんて言葉もどこかで聞いたような気がしますが、「食べる」は「生きる」に直結しています。

食べるとは、他の生き物の生命を摂取することです。しかし普段我々が目にしているのは、加工済、あるいは調理済の食材であり、料理でしかない。そこから生命を感じることはほとんどありません。

これもまた、社会によるフィルタの一つと言っていいでしょう。

しかし『メイドインアビス』は、それを許しません。調理前、加工前の姿から見せています。それこそが、「食べる」という行為の本当の姿だからです。

メイドインアビス』は、人間の三大欲求である食欲についても「むき出しの姿」を描いているわけです。

『メイドインアビス』作品情報

最後に、作品について紹介しておきます。

原作は、つくしあきひとによる同名漫画です。

竹書房のコミック配信サイト『WEBコミックガンマ』に不定期連載されていて、第1話と第2話、それに最新2話が無料で読めるようになっています。

アニメはこれまでにテレビ2期、劇場版2作が制作されています。制作はすべてキネマシトラス。テレビ第1期のタイトルだけが『メイドインアビス』で、それ以外は『メイドインアビス 〇〇の○○』のような文言が追加されています。

具体的には、こんな感じです。

『メイドインアビス』

テレビ第1期。2017年7月ー9月放送。

『メイドインアビス 旅立ちの夜明け』

劇場版第1作前編。2019年1月公開。

『メイドインアビス 放浪する黄昏』

劇場版第1作後編編。2019年1月公開。

『メイドインアビス 深き魂の黎明』

劇場版第2作。2020年1月公開。

『メイドインアビス 烈日の黄金郷』

テレビ第2期。2022年7月ー9月放送。

どの順番で見るのが良い?

劇場版第1作はテレビ第1期の総集編なので、テレビ第1期を見ている方は飛ばしても問題ありません。

一方、劇場版第2作『深き魂の黎明』は必須です。

テレビ第1期の後日談になっているので、『深き魂の黎明』を見ずにテレビ第2期『烈日の黄金郷』を見始めると話がつながらなくなってしまいます。

話をきちんと追いたいなら、以下の順番になります。

  1. 『メイドインアビス』
  2. (『メイドインアビス 旅立ちの夜明け』)
  3. (『メイドインアビス 放浪する黄昏』)
  4. メイドインアビス 深き魂の黎明
  5. 『メイドインアビス 烈日の黄金郷』

太字は劇場版、()付きは劇場版第1作なので、テレビ第1期を見ていれば飛ばしてもOKです。

タイトル

テレビ

  1. 『メイドインアビス』
  2. 『メイドインアビス 烈日の黄金郷』

劇場版

  1. 『メイドインアビス 旅立ちの夜明け(前編)/放浪する黄昏(後編)』
  2. 『メイドインアビス 深き魂の黎明』
放送・公開

テレビ

  • 第1期:2017年7月7日 – 9月29日
  • 第2期:2022年7月6日 – 9月28日

劇場版

  • 第1作前編:2019年1月4日
  • 第1作後編:2019年1月18日
  • 第2作  :2020年1月17日
放送局・配給
  • テレビ:AT-X、TOKYO-MXほか
  • 劇場版:角川ANIMATION
話数・上映時間

テレビ

  • 第1期:全13話
  • 第2期:全12話

劇場版

  • 第1作前編:119分
  • 第1作後編:108分
  • 第2作  :105分
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この記事を書いた人

アニメとサッカーを見るのが好き。
累計視聴数は400本を超えていて、今も増え続けています。

作品を見て、感じたこと、考えたことを書いています。