『ドリフターズ(DRIFTERS)』感想・レビュー|異世界でも国獲りを始めちゃう戦国武将たち

ドリフターズ(DRIFTERS)
HOODS DRIFTERS STUDIO 2016
監督:鈴木健一
原作:平野耕太
シリーズ構成:倉田英之
脚本:倉田英之・黒田洋介
キャラクターデザイン・総作画監督:中森良治
キャスト:中村悠一・内田直哉・斎賀みつき・古城門志帆・杉田智和
OPテーマ:
 「Gospel Of The Throttle 狂奔REMIX ver.」Minutes Til Midnight
EDテーマ:
  「VERMILLION」 黒崎真音

本作の脚本に倉田英之と黒田洋介の名前がありますが、この二人が同じ作品を担当するのは『エクセル・サーガ』以来みたいです。『エクセル・サーガ』のシリーズ構成は「地獄組」になっていますが、これが二人の組んだユニットでした。

エクセル・サーガ』。正式名称は『へっぽこ実験アニメーション エクセル♥サーガ』です。自ら「へっぽこ実験アニメ」と名乗っている通り、パロディ満載、荒唐無稽でなかなかにぶっ飛んだ作品でした。

放送されていたのは、『ドリフターズ』から遡ること17年前の、1999年10月から、2000年3月。それ以来の倉田・黒田コンビということですが、本作は『エクセル・サーガ』みたいに、

「これはどうなんだ、原作通りなのか、原作もこんなに無茶苦茶なのか」

というようなことにはなっていませんでした。

エクセル・サーガ』は未だに原作読んでいないので、あのアニメが原作通りだったのかどうかよくわかっていません。でもまあ、違うのだろうと思っています。

一方、『ドリフターズ』は原作から入りました。だからよくわかるのですが、原作の良さがアニメになってさらに良く引き出されていたと感じました。

原作ファンも納得できる内容になっていたんじゃないかと思いましたね。

『ドリフターズ(DRIFTERS)』概要

※タップすると楽天のサイトに移動します。

主人公は実在の戦国武将・島津豊久

本作の主人公は、「島津の退き口」で知られる実在の戦国武将・島津豊久です。島津家なので、薩摩の人ですね。

物語は、その「島津の退き口」の真っ最中から始まります。この戦いで、豊久は関ケ原から退却する島津隊の殿をつとめました。それを猛追してきたのが、徳川四天王の一人であり、猛将としても知られる井伊直政。豊久は直政隊と激戦を繰り広げたと言われています。史実では、この戦いで豊久は討死

しかし『ドリフターズ』ではそうはならず、重傷を負いながらも戦場をさまよっていた豊久は、気が付くと左右に扉の並んだ長い廊下のような場所に迷い込んでいました。そこで出会ったと呼ばれる人物によって、豊久中世ヨーロッパ風の異世界へ飛ばされていくことになります。

時代も洋の東西も関係なく飛ばされる

異世界についた豊久がすぐに知るのは、飛ばされたのは自分だけではないということでした。豊久より前にも、歴史上の人物が何人も飛ばされていたのですね。

豊久が最初に出会うのは、織田信長那須与一です。

織田信長と那須与一。どちらも日本史上の人物ですが、時代が違います。織田信長は16世紀の人ですが、那須与一はそれより400年くらい前の、12世紀の人です。

普通なら一緒にいるはずのない二人が、一緒にいる。ここは本作の独特なところで、異世界に飛ばされるのは、主人公である豊久と同じ時代の人間とは限りません。信長のように近い時代の人もいますが、そうでないケースも少なくなく、豊久より後の時代の人物だったり、日本以外の国の人物であるケースも存在しています。

異世界での「国獲り」

歴史上の人物が送り込まれてくるからと言って、そこが歴史上の人物たちだけで構成されている世界かというと、もちろんそんなことはありません。

元々、そこで生きている住民たちも当然存在します。それも人間だけでなく、エルフやドワーフといった人間以外の種族もいます。

彼らは送り込まれてくる歴史上の人物を、「漂流物(ドリフターズ)」と呼んでいます。作品のタイトルは、ここから来ているのですね。厳密には異世界に飛ばされた人間すべてが「漂流物(ドリフターズ)」に該当するわけではないのですが、その違いは物語が進んでいくとわかってきます。

豊久が送られたのは、エルフの村のちかくでした。「島津の退き口」で重傷を負ったままの豊久は、エルフに助けられ、信長と与一がいる廃城へと運ばれます。ただ、エルフたちはこの地域を支配する人間からドリフターズとの接触を禁じられており、それを破ったことから制裁を受けることになってしまいます。

そこにやってくるのが、豊久、信長、与一の三人でした。彼らはエルフたちを助けて戦い、人間に虐げてきた彼らを蜂起させて、異世界での「国獲り」へと乗り出していきます。

『ドリフターズ(DRIFTERS)』レビュー

※タップすると楽天のサイトに移動します。

本作序盤の大きな魅力は、

豊久たちが、虐げられていた異世界の住民たちを束ねて支配者層にやり返す

ところです。

まあ、よくある話と言ってしまえばそれまでですが、それだけに痛快でもあります。

豊久も信長も戦国武将なので、戦いはもちろんお手のもの。与一はちょっと時代が違いますが、でも武家ですからね。戦えます。

ここでちょっとおもしろいなと思ったのは、元いた世界を感じさせるところです。

特に顕著なのは、信長です。織田信長と言えば、小学生でもその名を知っているくらいの日本史上の「超」有名人ですから、その生涯において彼が誰と戦い、どんなことをしてきたのかはよく知られています。その経験を本人のセリフに混ぜたり、戦い方から感じさせるのですね。

「散々おれが一向一揆にヤられた手じゃもの」というセリフは、信長が一向一揆との戦いに手を焼いたことを思い出させますし、騎馬隊との戦い方を熟知しているところは長篠を想起するでしょう。

こうした要素がちょこちょこ差し挟まれることで、信長がより「織田信長」っぽく見えてきます。

一方、主人公である島津豊久の場合はここが少し違っています。彼は個人のエピソードよりも、島津家の人間であることを強調するような描き方をされているのですね。それによって「それっぽさ」が演出されています。

豊久はいわゆる「戦闘民族」として描かれています。戦のこと、大将首を獲ることしか頭にないような人間ですね。勇敢で、戦闘能力は極めて高く、自ら傷を負うことなど少しも恐れていません。そしてこの豊久のふるまいは一般に知られている「島津家」のイメージと合致しているのですね。だからこそ、彼自身も本当の島津豊久のように思えてきます。

戦国武将たちの「解像度の高さ」

もう一つ、本作でおもしろさを感じたところに「解像度の高さ」があります。

これは主に豊久や信長のような戦国武将の場合にはなるのですが、彼らの解像度が高い。歴史上の有名人の名前やエピソード、一般的なイメージを拝借しただけ、というわけではないのですね。

物語が進むとわかってくるのですが、豊久たちに求められているのは、目的もなく異世界で暴れまわることではありません。彼ら「漂流物(ドリフターズ)」に求められているのは、「廃棄物(エンズ)」と呼ばれる者たちとの戦いです。

エンズは軍勢を持っているため、個人で対抗することはできません。ではどう戦えばいいか、という問いに対して豊久や信長が選ぶ方法が「国獲り」。異世界に存在している国を自分たちが奪い、その軍でもって、エンズと戦おうという発想です。

「既にある国に協力を仰ぐか、その国にある軍を貸してもらえばいい」とは考えないのですね。領主たちが軍を手放さないことを、自らも領主であり国主であった彼らはよく知っているからです。

銃の重要性を理解している

国獲りをするのに避けて通れないのが、戦いですね。「獲る」というくらいですから、軍事衝突は避けられません。豊久や信長は戦国武将ですから、戦い方もそのための準備の方法ももちろん心得ているわけですが、ここで特に注目したいのがです。

豊久たちが飛ばされた異世界の技術レベルは、時代設定と同じで中世ヨーロッパくらいです。銃はまだ存在しておらず、戦いは主に剣や槍、弓矢をもって行われています。

豊久や信長が元々いた日本の戦国時代と、状況は似ています。ただ、戦国期の日本には既に火縄銃はありましたよね。そしてだからこそ、銃の重要性を豊久や信長は理解している。この場合は豊久よりも、信長ですね。先ほど触れた長篠の戦いでは、銃をうまく使って武田の騎馬隊を破ったことが知られていますからね。

自分たちの行う「国獲り」に銃が必要、と信長は考えます。しかし今いる異世界には、銃はない。ではどうするか。

ここがまた『ドリフターズ』という作品のおもしろいところで、「ないから諦める」のではなく、「ないなら作ってしまえ」と考えるのですね。

戦国武将たちの死生観

信長たちは、銃を自分たちで生産しようとします。それも銃本体だけでなく、銃を撃つのに必要な火薬も、です。豊久や信長は、火薬やその材料となる硝石の作り方を知っているのですね。だからこそ、それができるわけですが、ここで目を引くのは知識があることではなく、その作り方そのものの方です。

これが、なかなかにすごい。

殺害した敵の遺体を利用するのがその方法なのですが、現代に生きる我々にはちょっと受け入れがたいやり方で、豊久たちは硝石を作り出そうとします。

ここは作品の中でも大きくクローズアップされているところで、彼らに同行している「十月機関」という組織の魔術師オルミーヌが、見ている我々の心情を代弁してくれているのですが、豊久たち戦国武将は死生観が違っている。死を即物的なものと捉えていて、遺体を利用することにまったく抵抗がありません。

乱世を生きてきた戦国武将たちにとって、死は日常の一部であり、遺体は特別でも、神聖なものでもない。そうした戦国武将の、我々現代人とは違った感覚に着目し、描いているところにも、本作の「解像度の高さ」が感じられると思います。

「時代の違い」が優位を打ち消すことも

銃関係でもう一つ目を引いたのは、相手の元いた時代によっては、信長が用いる戦術の効果も薄いものになってしまう、という点です。

信長たちよりも後の時代から来た人間には、戦国時代の銃の使い方は通用しないということですね。これはまあ、当たり前と言えばそうかもしれません。後の時代の人は前の時代を知っていますし、火縄銃よりも高度で複雑な銃器が普通の時代だってありますから、どうしたってさは生まれてしまいますよね。

異世界の住民たちには、信長の銃の使い方は有効です。先ほども紹介したように、彼らの技術レベルは戦国時代の日本と大差ないからです。でも残念ながら、信長たちが戦う相手は彼らだけではありません。先ほども少し触れた「廃棄物(エンズ)」と戦うことが、求められているのです。

ここでちょっとエンズについて紹介しておくと、彼らもまたドリフターズ同様、元々は歴史上の人物です。送られてくる国や時代はドリフターズと同じで、年代も、洋の東西も問いません。つまりは戦国時代より後の時代から送られてくる人物もいるわけで、そういう相手に対して、信長の用いる銃の使い方が効果をもたらさない、という場面が出てきます。

信長自身が、そのことに気が付くというのもいい。こういう部分も、細かいけれど作品の設定を活かしたおもしろさだと思います。「解像度の高さ」と言っていいんじゃないかと思いますね。

歴史好きならではの楽しさ

「洋の東西、時代を問わない」ことで実現可能なのが、「時代を超えた歴史上の人物同士の夢の対決」です。

戦国武将と幕末の剣士の対決、なんかがそうですね。戦国と幕末、2つの動乱期は日本史でも特に人気のある時代です。この二つの間には265年続いた江戸時代があって、2つの時代の人間が出会うことは実際にはありえなかったわけですが、『ドリフターズ』の世界ではそれが可能となります。

実際、作品の中でもそれは起こっています。

次にどんな人物が登場する?

次にどんな人物が送られてくるのか。ここも一つ、歴史好きには気になるところです。

何しろ、国も時代も限定されていませんからね。誰にでも、可能性はあります。そしてまた、そうした人間が持ち込む技術や兵器が、どのような作用をもたらすかも興味が引かれるところです。ここでも注目は、やはり信長。技術の価値を正しく見抜き、活用できる彼が、自分より後の時代の技術や兵器をどのように使っていくのかにも興味を引かれます。

そういう意味では、本作のおもしろさは「違う国、違う時代の人間たちを、同じ時代の同じ場所に放り込んだらどうなるか」というところにあるんだろうと思います。異世界はあくまで舞台に過ぎないんですね。

だからこそ、「中世ヨーロッパ風で、エルフやドワーフが存在している」という、何の変哲もないファンタジーの定番をそのまま利用しているんじゃないかと思います。舞台である異世界に、妙に凝った設定は必要ないということなんでしょうね。

「異世界に送った者たち」の目的は?

歴史上の人物を、異世界に送る者たち。

ドリフターズは概要でも紹介した紫、エンズはEAZYと呼ばれるゴスロリ姿の少女がそれを行っています。

彼らはどうやら対立関係にあるようですが、それ以外のことはほとんどわかっていません。

その正体も、なぜ対立しているのかも、歴史上の人物たちを送り込んで異世界で何をしようとしているのかもはっきりしない。

人を送り込むだけで自ら直接関与はしない、というところから、神のような存在と見ることができそうですし、自分の主張を相手に認めさせるために、異世界を舞台、歴史上の人物たちをコマとしたゲームをやっている、と見ることもできそうです。

豊久たちに「国を獲ってエンズと戦う」という大きな目的が与えられているため、彼らの正体はそれほどクローズアップされておらず、物語をけん引する謎にはなってません。とはいえ、気になることは間違いない。

でも残念なことに、アニメではそこまで描かれていません。アニメ化時点では、原作はまだ連載中だったからです。

現時点(2023年10月)でアニメ第2期の具体的な話は聞こえてきていないため、先を知りたければ、原作を追う必要がありそうです。アニメは原作をかなり忠実に再現しているので、アニメが気に入ったなら、原作にもスムーズに入っていけるんじゃないかと思います。

『ドリフターズ(DRIFTERS)』作品情報

作品情報です。

ドリフターズ(DRIFTERS)』の原作は、平野耕太の同名漫画です。

少年画報社の『ヤングキングアワーズ』に連載中ですが、休載も多いようですね。

コミックスは2023年10月時点で、7巻まで出ています。

アニメはHOODS DRIFTERS STUDIOの制作で、2016年10月から12月までTOKYO MXほかで放送されました。全12話ですが、OVAで第13話と第14話も制作されています。

同じ原作者の作品だと、『HELLSING』もおすすめです。

こちらもアニメ化されているので、『ドリフターズ(DRIFTERS)』が気に入った方はぜひチェックしてみてください。

タイトル

『DRIFTERS』

放送

2016年10月7日 – 12月23日

放送局

TOKYO-MXほか

話数

全12話+OVA2話

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

アニメとサッカーを見るのが好き。
累計視聴数は400本を超えていて、今も増え続けています。

作品を見て、感じたこと、考えたことを書いています。