『であいもん』(2022年 エンカレッジフィルムズ)は、2016年から『ヤングエース』で連載されている浅野りんの同名漫画のアニメ化作品です。
この作品で目を引くのは、
母親と別居し、父親からも「置いていかれた」少女と、彼女が引き取られた先で出会った30過ぎの独身男との間に擬似的な親子関係を生じさせようとしている
という部分です。
『うさぎドロップ』(2011年 Production I.G)をほうふつとさせる設定ですね。河地大吉と鹿賀りんの関係は、親子そのものでした。
ただ、では『であいもん』が『うさぎドロップ』の二番煎じなのかのというと、そうではなかったと思います。
『であいもん』は、『うさぎドロップ』ほど少女と男の関係にフォーカスしていたわけではなく、二人の「擬似親子」関係にまったく影響を与えそうもないエピソードもふんだんに盛り込まれていました。
全体から見ると、少女と男の「擬似親子」も本作の一要素に過ぎなかった、と言っていいと思います。
そしてその魅力は、作品全体に漂う「淡く、包み込まれるような穏やかさ」にありました。
1クール12話で終わってしまいましたが、第二期を期待したくなる作品でした。
『であいもん』概要
であいもん
放送 | 2022年 |
話数 | 全12話 |
制作 | エンカレッジフィルムズ |
原作 | 浅野りん(ヤングエース) |
監督 | 追崎史敏 |
シリーズ構成 | 吉田玲子 |
キャスト | 島崎信長 結木梢 小山力也 大原さやか |
冒頭でも紹介した通り、『であいもん』で目を引くのは、
母親と別居し、父親にも「置いて行かれた」少女・雪平一果(いつか)と、一果の引き取り先である京都の和菓子屋「緑松」の息子で、30過ぎの独身納野(いりの)和の間に擬似的な親子関係を生じさせようとする
部分です。
ここだけ切り取ると確かに『うさぎドロップ』なのですが、実際には次のような違いがありました。
- 一果と和は二人暮らしではない
-
『うさぎドロップ』では、大吉とりんは二人で暮らしていました。
しかし『であいもん』はそうではありません。一果が引き取られたのは和の実家である京都の和菓子屋「緑松」で、和の両親も一緒に暮らしています。
「緑松」には和の家族以外にも職人や従業員がおり、店の手伝いもしている一果は彼らとも日常的に交流があります。一果の周りにいる人は、一般家庭の子どもよりもむしろ多いくらいなのですね。
そのため家にいても、一果と和が二人きりという時間はほとんどなく、二人の関係が『うさぎドロップ』ほど近くなることもありません。この点は、二つの作品の大きな違いだったと思います。
- 一果の方が年上
-
『うさぎドロップ』のりんは初登場時6歳で、保育園の年長相当でした。まだまだ大人の世話が必要な年齢で、独身で子育て経験のない大吉は、りんの養育にあたってあれこれ考えたり、悩んだりしていました。
それに対して『であいもん』の一果は、初登場時既に10歳です。りんとの年齢差は4歳ですが、子どもの頃の4歳差は大きい。10歳にもなれば、大抵のことは自分でできます。そのため和は大吉ほど「親」をやる必要がありませんでした。
「親としての在り方」という部分では、『うさぎドロップ』の方が深く、踏み込んだところまで描かれていたように思います。
『であいもん』では、
- 一果と和以外の人間関係
- 京都の風習
- 季節の和菓子
といった複数の要素にも光が当たっており、一果と和の「擬似親子」関係ばかりが描かれているというわけでもありませんででした。
二人の関係は『であいもん』という作品が持ついくつもの要素の一つに過ぎなかった、と言ってもいいくらいかと思います。
本作で描かれていたのはむしろ、
京都という町を舞台にした、和菓子屋「緑松」に縁のある人たちの物語
でした。
『うさぎドロップ』とは、似ているようで、まったく似ていない作品となっています。
『であいもん』レビュー

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「穏やかさ」が感じられる作品
『であいもん』は、とにかく穏やかな作品でした。
登場するのがおとなしい人ばかりで、トラブルや負の感情がまったく発生しなかった、というわけではありません。そういった要素もあるにはあるのですが、それらすべてを包み込んでくれるような穏やかさが、本作からは感じられました。
その大きな要因となっていたのが、主人公納野和の性格だったように思います。
和は、一見すると軽薄です。
大学卒業と同時に実家を飛び出し、京都に戻ってきたのは10年ぶりとのことなので、年齢は既に30を過ぎているはずです。ですが、和の言動からは年相応のものが感じられません。
愛想のよさだけが取り柄の、軽い男に見えてしまうのですね。
実家を飛び出した理由が「上京してミュージシャンになる」というのも、そうした印象を強くしているように思います。
しかし、では本当に和が何も考えていない、調子がいいだけの男なのかというと、そうではありません。
実際には、人の心がわかる、優しい人間です。また、我を張らず、他人を受け入れる寛容さも備えています。
性格に軽さがあることは確かなのですが、その軽さも明るさとなって『であいもん』という作品全体を照らしていました。
この和の温厚で、包容力のある性格は要所要所に表れていました。それが『であいもん』という作品の雰囲気を作り出すのに、大きく関係していたと思います。
淡い恋愛事情
『であいもん』には、和に想いを寄せる二人の女性が登場します。
- 「緑松」でアルバイトをしている高校生・堀河美弦
- 和の元恋人・松風佳乃子
佳乃子の「元恋人」というのが、捻りが効いていていいですね。
この場合、求めるのは「復縁」になりますから、シンプルに想いを寄せているだけのケースよりも立場が複雑になります。
では美弦の方が有利なのかというと、そうでもないのですね。
彼女の場合、若さが諸刃の剣になってしまっています。
現役女子高校生である美弦の若さは、本来なら大きな武器になるはずです。ところが本作では、和があまり恋愛に貪欲でないこともあってなのか、それが有効に機能しているとは言えません。
むしろ、10歳以上という大きめの年齢差がマイナスに働いているようにさえ、感じられます。和からは、恋愛対象というよりも、年の離れた妹のように見えているのではないか、という気がしてくるのですね。
「控えめな甘さ」がちょうどいい
結局のところ、
どちらにも可能性はあるが、どちらが本命とまでは言えない
というのが和をめぐる恋愛事情で、それらしい香りがほんのりと漂う程度に留まります。
ただ、本作の場合このくらいがちょうどいいです。
美弦も佳乃子も、和への想いを自覚しています。
でも、ガツガツと和に向かっていくようなことはしません。その態度はあくまで控えめであり、しかも和自身は二人の想いに気が付いているのかどうか、怪しいくらいのものになっています。
第5話「おしょらいさん」において一果を間に挟んだ二人の接触も描かれましたが、ギスギスとしたやり取りが生まれることはありませんでした。
腹の黒い思考こそ見えはしたものの、美弦と佳乃子がライバルとして張り合うというような状況にも発展していません。
ラブコメディであれば、物足りなさを感じたところでしょう。
でも、『であいもん』の場合はこのくらいの淡さがいいのです。
控えめな甘さ、と言ってもいいかもしれません。
作品の穏やかな雰囲気に、とてもよく合っていました。
アクセントになっていた一果の境遇
一果の境遇は、やはり特異です。
特に父親に置いていたかれたことは、一果の心に深い傷を残しており、その影響から父に似た後ろ姿を見つけると後先考えず追いかけてしまったりもします。
しかしながら『であいもん』では、そうした要素を悲哀たっぷりに描いている、というわけでもないのですね。
一果自身が、何も感じていないわけではありません。
父に似た後ろ姿を追いかけてしまうのもそうですし、ふとした瞬間に父との思い出がよみがえる場面も何度か出てきます。
ただ、本作ではそうした一果に同情を感じさせるような要素を、それほど多く描いてはいないのですね。
極力、抑えているようにも見えます。
作品の雰囲気を考えると、この部分を強調し過ぎなかったことは非常に良かったと思います。『であいもん』の大きな魅力である、心を和ませる「穏やかさ」が薄れてしまいますからね。
一方で、この設定がなかったとすると今度は、「優しいだけの、物足りない物語」になっていたんじゃないかと思います。引っかかるところが、どこにもなくなってしまうんですよね。
その意味で、一果の境遇は『であいもん』のアクセントにもなっていました。
(一果の境遇そのものは、「緑松」の暮らしによって、一果の心の傷が癒されていく様子を描くためのものだったとは思いますが)
一果はどちらを選ぶのか
『であいもん』において、その行く末が最も気にかかるのが「将来における一果の選択」です。
父親が再び一果の目の前に現れたとき、一果は父親と「緑松」、どちらを選ぶのか。
「緑松」を選んでほしい、というのが、「見ている側」の本音なんじゃないかと思います。
我々が見ているのは「緑松」での暮らしですし、断片的に描かれる一果の過去の記憶からも、「緑松」での生活の方が一果にとって幸福に思えるからです。
しかし一果自身は、父が迎えに来てくれることを望んでいるのですね。
「緑松」での暮らしに不満があるわけではないものの、一番はやはり父親と暮らすことだというのが、ひしひしと伝わってきます。
この「見ている側」と一果とのズレは、一果が「緑松」での生活に馴染み、和との距離が近づいていくほど大きく感じられるようになってきます。
さらに心を波立たせるのが、一果と父親のニアミスです。互いに気が付かないところで、二人がすれ違う様子も何度か描かれいるんですよね。
『であいもん』は、基本的には、京都の和菓子屋を中心にした、穏やかで優しい日常が描かれた作品です。しかしこの部分については、心を落ち着かせてくれないものがありました。
季節感を大事にしている作品
『であいもん』は、季節感を大事にする作品でもありました。
これについては、和菓子屋が舞台だったことが理由に挙げられると思います。
『であいもん』は1話1ヶ月、全12話でちょうど1年が巡るようになっており、その季節に合った和菓子が毎回登場していました。
いつも必ずエピソードに深くかかわって来る、というわけではなかったものの、作品の雰囲気を作る小道具としてうまく機能していたように思います。
「おはぎとぼたもちの違い」のような、和菓子に関する豆知識が紹介されることもありました
また、祇園祭や「大文字焼き」のような、京都ならではの風習も季節に合わせて描かれていました。
『であいもん』まとめ
『であいもん』は、『うさぎドロップ』を思い起こさせる設定を持っているものの、実際にはまったく違う作品だった、と言っていいと思います。
京都という町を舞台にした、和菓子屋「緑松」に縁のある人たちの物語
が『であいもん』であり、和と一果の関係はその一要素でしかありませんでした。
心穏やかに見ることができる作品ですが、一果の父親の存在がほとんど唯一とも言える「落ち着きを失わせる要素」であるように思います。
もう少し、続きが見たいと思わせてくれる作品でもありました。
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本記事の情報は、2022年7月14日時点のものです。最新の情報は公式サイトをご確認ください。