今回取り上げるのは、『ヒーラー・ガール』(2022年 Studio 3Hz)です。
この作品は、2021年に結成された声優コーラスユニット「ヒーラーガールズ」を元にしたオリジナルアニメです。
メインキャラクターを演じているのが、ヒーラーガールズのメンバー。ですので、当然登場人物たちは歌います。
それも純粋な歌唱シーンばかりでなく、ミュージカルのように歌いながらセリフを言う場面が何度も出てきます。
正直最初に歌い始めたときには戸惑いました。何の脈絡もなく突然歌い始めましたし、本作にミュージカル要素があるという予備知識もなかったですからね。
歌いながらセリフを語る場面は何度か登場するので、ミュージカルを見慣れていない人からすると「どうしてここで歌うのだろう?」という疑問は浮かぶかもしれません。「ミュージカルあるある」ですね。
要は、それだけ歌うことを前面に押し出した作品ということです。コーラスユニットを元にした作品ですし、歌が得意な声優が多く起用されていますから、それを存分に生かしていると考えればいいでしょう。
ただ、肝心の物語の方はコーラスユニットの話ではないです。
メインとなっているのは、何と医療なのですね。
「歌と医療にどういう関係が?」と思われるかもしれませんが、『ヒーラー・ガール』の舞台設定は、
歌で病気や怪我を治す、ヒーリングという技術が普及した世界
というものです。
ですから、歌と医療は見事に結びついているのですね。
ただし、個人的にはこの設定、ちょっと難しかったかな、という印象を受けました。
『ヒーラー・ガール』概要
ヒーラー・ガール
放送 | 2022年 |
話数 | 全12話 |
制作 | Studio 3Hz |
監督 | 入江泰浩 |
脚本 | 木村暢 |
キャスト | 磯部花凛 堀内まり菜 熊田茜音 吉武千颯 |
『ヒーラー・ガール』は冒頭でも紹介した通り、歌で病気や怪我を治すヒーリングという技術が普及した世界を舞台としています。
西洋医学、東洋医学に続く第三の医学が「音声医学」で、それに基づいた治療がヒーリング。『ヒーラー・ガール』という物語ではごく当たり前の治療法として、内科や小児科などと同じようにヒーリングを施す町のクリニックまで存在しています。
そのヒーリングを行う医療従事者のことを、ヒーラーと呼びます。ヒーリングは医療行為であるため誰でも自由に行ってよいわけではなく、ヒーラーになるには試験を受けて資格を取得する必要があります。
本作の主人公藤井かなは、高校生の見習いヒーラーです。
ヒーラーに必要な資格を取得するべく、同じ見習いヒーラーである五城玲美、森嶋響とともに、師匠である烏丸理彩が営む音声治療院で修業の日々を送っています。
「ヒーラーガールズ」のメンバーは4人
本作でメインキャラクターを演じているのが、コーラスユニット「ヒーラーガールズ」のメンバーであるというのは既に紹介した通りです。
「ヒーラーガールズ」メンバーは、次の4人。
- 磯部花凛
- 堀内まり菜
- 熊田茜音
- 吉武千颯
先ほど紹介した見習いヒーラーは3人なので、1人余ってしまいますね。
見習いヒーラー役でない1人は、別の治療院に所属している矢薙ソニア役で出演しています。
ソニアもメインキャラクターの1人ですが、彼女は見習いではなく既にC級ヒーラーの資格を取得しており、3人より一歩進んだ立場となっています。
『ヒーラー・ガール』レビュー

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なじみにくい「ヒーリング」
歌による治療法「ヒーリング」をど真ん中に据えた『ヒーラー・ガール』ですが、正直なところこの「ヒーリング」には最後までなじめませんでした。
理由についてあれこれ考えてみたのですが、その答えはどうやら、
「ヒーリング」の持つ、中途半端な現実感
にあったようです。
現実に存在する歌の「いやし効果」
「ヒーリング」という治療方法は、あくまで架空のものです。
怪我や病気が歌で治るという話は聞いたことがないですし、ヒーラーという職業も、そのための資格も存在していません。
ただ、歌が人間の不調にまったく何の効果ももたらさないかというと、そういうわけでもないですよね。
精神的な不調や不安の軽減に歌や音楽が効果を発揮する、というのはよく知られた話です。「いやし効果」とでも呼べばいいでしょうか。
つまり、効果や影響範囲が限定的ではあるものの歌にいやしの力があるのは、事実であり現実でもあるわけですね。
ところが『ヒーラー・ガール』の場合、この「いやし効果」の現実感が作品の邪魔をしてしまっています。
というのも、これがあるせいで本作の「ヒーリング」がそれほど効果の高いものに見えてこないからです。
引っ張られるイメージ
『ヒーラー・ガール』に登場する「ヒーリング」は、実際に存在するものよりももっと効果が大きいものという設定がなされています。
すなわち、歌の「いやし効果」には現実感があるわけです。
一方、本作『ヒーラー・ガール』に登場する「ヒーリング」は、もっと効果が大きいものという設定がなされています。
何しろ、「第三の医学」と位置付けられているくらいですからね。その効果は精神面にとどまらず、身体的な病気や怪我も歌で治療することができてしまいます。
ただ、この設定、なかなかすんなりと入ってきてくれません。理由はすでに書いた通りで、現実に存在する「いやし効果」のイメージが邪魔をするからです。
歌による治療と聞くと、どうしても現実に存在する「いやし効果」のイメージが頭に浮かんでしまうんですよね。そのため「ヒーリング」が、リラックス効果程度のものに見えてしまいます。
「歌で怪我や病気の治療ができる」という設定を、頭では理解しています。しかしイメージの方がどうしても追いつかず、最後まで「いやし効果」の呪縛から逃れることができませんでした。
「現実」の与える印象が、それだけ強いということなのかもしれません。
これが例えば魔法のように、現実にまったく存在しないものだとしたら、このような余計なイメージは付きまとってこなかったような気がします。先入観がないですからね。
しかし似たような効果が現実に存在するという「中途半端な現実感」のせいで、本作の核とも言える「ヒーリング」の設定になじむことができませんでした。
コーラスユニットと「見せ場」
元になっているのがコーラスユニットであるという点も、『ヒーラー・ガール』の難しさだったかもしれません。
アイドルやバンドであれば、ライブパートをそのまま見せ場にすることができます。アイドルにはダンスがありますし、バンドも演奏場面で動きを出すことはできますからね。
でもコーラスユニットでは、同じようにはいきません。歌唱場面は、その場に直立が基本です。動き回るコーラスというのも、あまり見かけないですよね。
『ヒーラー・ガール』をコーラスユニットの物語にしなかった理由の一つも、そこにあるような気がします。平たく言ってしまえば、見せ場が作りにくい。
そこで「ヒーラー」から連想される「ヒーリング」を膨らませて、医療色を強めにしたのではないかと思います。
そうすることによって歌唱に「治療」という具体的な方向付けができますし、歌に喚起されるイメージに物語性を与えることもできますからね。
この点については、うまくいっていたのではないかと思います。
歌と治療のイメージ映像で構成される「ヒーリング」の場面は見せ場と呼ぶには十分でしたし、『ヒーラー・ガール』の見どころの一つとなっていました。
コーラスを真ん中に据えた作品は作りにくい?
やり方次第かな、と思います。
『TARI TARI』(2012年 P.A.WORKS)のように、コーラス(合唱)をど真ん中に据えて成功している作品もありますからね。
ただ、『TARI TARI』はコーラスユニットを元にしていたわけではないので、『ヒーラー・ガール』とは少し状況が違ってはいました。
「成長感」の乏しさ
『ヒーラー・ガール』にはメインキャラクターであり、見習いヒーラーでもある、
- 藤井かな
- 五城玲美
- 森嶋響
の3人のヒーラーとしての成長を描く、という側面もありました。
ただ、これはちょっとわかりにくかったです。
物語の中では成長したことになっているようですが、見ている方としては心にすとんと落ちるほどの成長は感じられませんでした。
理由の一つに、
一流のヒーラーとそうでないヒーラーの違いが、もうひとつはっきりしない
という点があったように思います。
3人の師匠である烏丸理彩は卓越したヒーラーとされているのですが、具体的にどこがすごいのかがわかりにくいのですね。
一応、ヒーラーとしての実力を示す指標の一つとして歌唱技術が挙げられてはいたのですが(第2話で、かなが転調に苦しんでいました)、これもあまり一般的ではないように感じました。
きちんとした音楽の教育を受けた人にとってはわかりやすかったのかもしれないですが、そうでない人たちにはピンとこなかったのではないかと思います。
そもそも見習いヒーラーの3人も、演じているのは「ヒーラーガールズ」のメンバーですから、歌はうまいんですよね。
うまい人が下手に歌う、ということもできるのかもしれませんが、本作ではそういうわけにもいかなかったと思います。それをやると、見せ場であるはずのヒーリングの場面の魅力が半減してしまいますからね。
「経験値の差」や「ヒーラーとしての心構え」みたいな部分で、烏丸の方に一日の長があるのはわかったものの、インパクトとしては弱かったです。
3人のどのあたりに不足があり、それがどう克服されていったのか、というところがもう少し見えると、3人の成長がもっと感じられたのかもしれません。そういう意味で、少々物足りなさは残りました。
「ヒーリング」以外の魅力
「ヒーリング」をど真ん中に据えている『ヒーラー・ガール』ですが、作品の魅力はむしろ「ヒーリング」以外の部分に多くあったように思います。
テンポや間の取り方がよく、リズミカルに話が進んでいくので、物語を見る上であまりストレスを感じませんでした。
動きも多く、第3話の町内運動会や、第6話、第7話の文化祭のエピソードなどは躍動感のある話になっていたと思います。
「歌による怪我や病気の治療」という独特の設定に目が向きがちですが、そこにこだわりすぎない方が楽しめる作品なのかもしれない、という印象を受けました。
『ヒーラー・ガール』まとめ
『ヒーラー・ガール』は、音声医学が「第三の医学」として広く普及し、歌によって怪我や病気の治療が可能となった世界の物語でした。
ただ、歌には実際に「いやし効果」が存在するため、そのイメージの呪縛から逃れるのは難しかったように思います。歌と治療のイメージ映像で構成されたヒーリングの場面は、見どころにはなっていましたけどね。
見習いヒーラーの3人の成長も、もう少しわかりやすく見せられるとよかったと思いました。一流のヒーラーと、そうでないヒーラーの違いが歌唱技術の差によるものだとしたら、見ている側がすんなり理解するのは、ちょっとハードルが高かった気がします。
話のテンポはよく、躍動感のあるシーンも多かったため、「ヒーリング」に固執しすぎなければ楽しめる作品であるようにも思いました。
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本記事の情報は、2022年6月30日時点のものです。最新の情報は公式サイトをご確認ください。