『僕の心のヤバイやつ』感想・レビュー|ファンタジーをリアルが支える、ピュアでもどかしいラブなコメディ

僕の心のヤバイやつ
シンエイ動画 2023
監督:赤城博昭
原作:桜井のりお
シリーズ構成・脚本:花田十輝
キャラクターデザイン:勝又聖人
音楽:牛尾憲輔

OPテーマ:ヨルシカ「斜陽」
EDテーマ:こはならむ「数センチメンタル」
キャスト:堀江瞬・羊宮妃那・朝井彩加・潘めぐみ・種崎敦美

僕の心のヤバイやつ』は秋田書店が運営するコミック配信サイト「マンガクロス」で連載中の、桜井のりおによる同名マンガを原作にしたTVアニメです。

テレビ朝日系全国24局ネット「ヌマニメーション」枠で、2023年4月から6月まで放送されました。既に第2期の制作も決まっていて、2024年1月の放送予定となっています。

桜井のりお原作のアニメというと、個人的には『みつどもえ』(2010-11年)思い出します。

小学生の三つ子姉妹を主役に据えたギャグアニメで、切れ味の鋭いギャグとテンポの良さ、それに丸みを感じさせるかわいらしいキャラクターと、それに似つかわしくない、ためらいのない下ネタが印象深い作品でした。

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僕の心のヤバイやつ』もこの点は同じで、まあまあキツめの下ネタは出てきます。

『みつどもえ』との違いは、本作のメインキャラクターが中学生であること。中学生の、特に男子の頭の中はほぼ9割が下ネタであることを考えると、こっちの下ネタはギャグばかりでなく、リアルを演出する一要素になっていると言って良いのかもしれません。

下ネタによって支えられるリアリティ。なかなか強めの言葉です。

『みつどもえ』と『僕の心のヤバイやつ』とのもう一つの違いは、『僕の心のヤバイやつ』がラブコメであるということです。描かれているのは中学生のラブ、それも陰キャの男子とクラスメートで、目黒区一の美少女とのピュアなラブです。

下ネタも出てきちゃうんですが、それはあくまで枝葉です。メインではないですし、回数もそんなに多くはありません。

まあ、ここは人によって感覚の違いがありますからね。Twitterを覗くと、「下ネタが苦手」という人もちらほらいたようでした。

個人的には、それを理由に見るのをやめるのはもったいない作品かなと思いました。

『僕の心のヤバイやつ』概要

僕の心のヤバイやつ』の主人公は、いわゆる「陰キャ」の中学二年生市川京太郎です。

彼は中学二年生という学年そのままに、「中二病」を患っています。その症状は自らを「頭がおかしい」と思い込むこと。それを誇示するように、教室ではいつも「殺人大百科」みたいな本を読んでいます。中二ですね。加えて彼は、「いつか自分が教室を血の海にしてしまうのではないか」という衝動に悩まされているのだ、とも独白します。

そんな中二病の典型的症状を見せてくれる市川の最も「コロしたい」と思っている相手が、目黒区一の美少女で、モデル活動もしているクラスメートの山田杏奈です。本作のヒロインでもあります。

山田は別に、市川に何かをしたわけではありません。ただ自らをクラスの底辺と考えている市川は、最上位にいる山田が自分を見下していると思い込みます。逆恨みみたいなものです。

ただ実際には恨みですらなく、これ自体は山田が気になって仕方がないことの現れだったりします。「好きな娘にはいたずらしたくなってしまう」というあれですね。あれに中二病が絡んで、もっと派手にこじらせるとこんな感じになるんだと思います。

市川本人は、そうした自分の気持ちにまだ気が付いていません。

でもだからといって、山田を「コロす」ために何かができるかというとそんなこともなく、それどころか陰キャの市川は、陽キャの頂点みたいなところにいる山田とは、まともに話をすることすらできません。

そんな二人が接点を持つのが、図書室です。陰キャの市川が憩いの場として使っている場所なのですが、そこにこっそり食べ物を持ち込んでいる山田と出くわします。

おにぎりをほお張り、鼻歌を歌いながらスナック菓子をボリボリむさぼる山田。その姿は、モデル活動までしている美少女のイメージからは、大きくかけ離れています。山田の意外な一面を見た市川は、どうやら彼女が自分の想像とは違った存在であることに気が付くのですね。

市川と山田は昼休みのたびに図書室を訪れ、そこで顔を合わせるようになります。

二人はクラスメートでもありますから、毎日教室で顔を合わせているはずです。でも「違う場所で、二人きりで会う」ということには、また違った意味があります。密会のようなものですね。

そうして逢瀬を重ねることで、市川と山田は次第に親しい関係となっていきます。

『僕の心のヤバイやつ』レビュー

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山田の思わせぶりな態度にもだえる序盤

胸をキュッと締め付けてくるようなエピソードがてんこ盛りの『僕の心のヤバイやつ』ですが、序盤で特にそれを感じさせられるのが山田の思わせぶりな態度です。

本作の視点は、市川で固定されています。

そのため山田の心理が直接描かれることはありません。言葉や行動、態度から推測するしかないのですが、これがまた難しい。

決定的な証拠は与えてくれないため、

「山田はやたらと市川に近づいてくるけど、市川のことが好きなのかな? でもそこまではっきりした態度は見せていないし、どうなんだろう。からかっているだけのように見えないこともないし、山田は天然でちょっと変わったところがあるから、誰にでも同じような態度をとっているようにも思える…」

というように、見ている我々は市川と一緒に、悶々とした時間を過ごすことになります。

まあ、何もこれは市川と山田の関係に限った話ではなく、恋愛の初期段階でよくある話ですね。

僕の心のヤバイやつ』の序盤は、あのもだえるような感情を疑似体験させてくれます。

まばゆいばかりのファンタジー要素

ここで一つ強く言っておきたいのは、『僕の心のヤバイやつ』がファンタジーであるという点です。

全部がファンタジーというわけではありません。主人公の市川は普通の中学生であり、魔法が使えるわけでも、異世界にちょいちょい召喚されるとかでもありません。

しかし作品の核になる部分には、どでかいフィクションが含まれてます。

それはすなわち、山田が市川に好意を抱く、という点です。

本作のヒロイン山田杏奈は、超絶美少女です。クラスを飛び出し、学校を乗り越え、人口28万人超の目黒区で一番の美少女と呼ばれるくらいの存在です。

そんな超S級の女の子が、クラスメートの陰キャくんを好きになったりするでしょうか?

ないですね。ないです、現実には。

銀座の高級寿司店に毎日通える金持ちが、わざわざ回転寿司を食べに行きますか? 行かないですよね。それと同じです。

いくらでもハイスペックな男を選びたい放題の山田が、わざわざ陰キャの市川を選ぶとはとても思えない。

でも『僕の心のヤバイやつ』では、市川に想いを寄せちゃっています。しかもただ胸に想いを秘めているだけでなく、積極的なアプローチまでしてくれちゃいます。

市川サイドからすると、こんなに都合のいい話はありません。普通ではとても手の届かないハイレベルな美少女が、向こうから近寄ってきてくれるわけですからね。

市川に限らず、全世界の男性にとって夢のような話です。

しかし実際には、そういうケースはレア中のレアです。そこをど真ん中に据えていますから、『僕の心のヤバイやつ』はやっぱり、ファンタジーと言っていいでしょう。

……と熱弁してみましたが、これは何も本作に限った話ではなく、ラブコメ作品の多くに似たようなところはありますよね。「それを言い出したら成立しないし、そもそも架空の物語だろ」と言われたらそこまでなのですが、ただ、どういうわけか『僕の心のヤバイやつ』については、その点を強く主張したい気分に駆られてしまいました。

ひょっとするとこれは「誰もが中学生の頃に一度は抱く妄想を、現実に見せてくれている作品だから」なのかもしれません。

なお、語弊のないように一応断っておきますが、「ファンタジーだからダメ」とか「ファンタジーだからおもしろくない」みたいな野暮な話をするつもりははまったくないです。

むしろ、ファンタジーだから良い。このくらい夢を見させてくれる方が、見ていて楽しいと思います。

市川のもどかしい鈍感さ

設定に目も眩むようなファンタジーが含まれている一方、当事者たちの言動には妙なリアリティがあるのが『僕の心のヤバイやつ』です。

主人公市川の場合は、もどかしいまでの鈍感さがそれに当たります。

彼は、自分への好意からくる山田の行動に哀しいくらいに反応できません。意図を理解できず、スルーしてしまう事象が頻発します。

見ている我々からするともどかしい限りなのですが、これって割と恋愛初心者にありがちな鈍感さでもあると思うんですよね。

自分が相手の恋愛対象になっていると思っていないから、行為の意図をうまく汲み取ることができずに受け流してしまう。

これが不思議なことに、第三者の立場だとよくわかるんです。だからこそ、山田のアプローチに対する市川の鈍感さに思わず声をあげたりしたくなってしまうのですが、ふと自分が似たような立場に立たされた時のことを思い返してみると、市川と同じことをやらかしていたりするんですよね。

この恋愛初心者にありがちな鈍感さは、一つリアルを感じたところでした。

もどかしさと、でも市川を責めることばかりもできない共感に感情が揺さぶられます。

普通の中学生でもある山田への共感

リアルという意味だと、山田にもそれがあります。

彼女の場合は、市川に対するアプローチの仕方ですね。直接「好き」とか言ったりはせず、基本的には遠回しです。

市川と違って山田は、いわゆる「恋愛強者」です。抜群の容姿を備えていますし、モデル活動もしているくらいですから、自分に相当の自信があってもおかしくはありません。

でも市川へのアプローチの仕方を見る限り、そうした強者の側面はほとんど出てきません。

普通の女子中学生がやりそうなことを、山田もやっています。だからこそ、山田の行動がリアルに感じられますし、また共感も得られるんだと思うんですよね。

「目黒区一の美少女なのに、恋愛は初心者」というところも、魅力になっている気がします。

原作派? アニメ派?

僕の心のヤバイやつ』は、基本的に原作準拠の作品です。

ですが、完全な原作再現というわけでもありません。

個人的に一番違いを感じたのは、山田杏奈のキャラクターデザインでした。

原作が少し特徴のある画風なので、それをそのままアニメ化しないのはわからなくもないです。同じ原作者の『みつどもえ』も同じで、原作とアニメでキャラクターの印象がだいぶ違いました。

ただ、山田はヒロインですからね。

すべてのキャラクターがそうだったわけではなく、クラスメートの関根萌子を除くと他はイメージとずれていなかったのですが、それでも原作とアニメで作品全体の印象がだいぶ違ったものになっていました。

これについては、優劣ではなく好みの問題なのかもしれません。

原作の方が良い、という人もいるでしょうし、アニメの方が好きという人もいるでしょう。

原作の方は「マンガクロス」のサイトで一部が無料で読めますので、気になった方は、そちらで確認してみてください。

『僕の心のヤバイやつ』まとめ

僕の心のヤバイやつ』のど真ん中には、「モデル活動もしている超絶美少女なクラスメートが、自分に恋心を抱く」という、陰キャの男ならおそらく誰もが一度は抱いたことがあるであろう妄想を、現実化させたようなファンタジーがありました。

でもそこ以外のところは、割とリアル。特に感情面では共感が強く、ピュアな中学生のラブが描かれていました。

市川と山田の恋愛初心者らしいぎこちなさ、それでもゆっくりと距離が近づいていく姿が良かったですね。

下ネタもありますが、それもリアルです。男子中学生の現実です。

アニメと原作で山田杏奈の印象が違うのは、個人的には見過ごせないところでした。

私は原作派です。

タイトル『僕の心のヤバイやつ』
放送・公開2023年4月2日 -2023年6月18日
放送局テレビ朝日系列ほか
話数全12話
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この記事を書いた人

アニメとサッカーを見るのが好き。
累計視聴数は400本を超えていて、今も増え続けています。

作品を見て、感じたこと、考えたことを書いています。