『カードキャプターさくら クリアカード編』感想・レビュー|17年半の空白が嘘のような、あの頃のままのさくらたち

カードキャプターさくら クリアカード編
マッドハウス 2018
監督:浅香守生
原作:CLAMP
シリーズ構成・脚本:大川七瀬
コスチューム・カードデザイン:もこな
キャラクターデザイン:濱田邦彦

OPテーマ:坂本真綾「CLEAR」/安野希世乃「ロケットビート」
EDテーマ:早見沙織「Jewelry」/鈴木みのり「リワインド」
キャスト:丹下桜・久川綾・岩男潤子・くまいもとこ・鈴木みのり

カードキャプターさくら クリアカード編』は、2018年1月から6月にかけて、BSプレミアムで放送されました。放送中の同年4月には、Eテレでの放送も始まっています。

制作はマッドハウス。前作までと同じです。

前作って何? という方に説明すると、『カードキャプターさくら』には本作を含めて3つの章があります。

『カードキャプターさくら』
  • 『クロウカード編』
  • 『さくらカード編』
  • 『クリアカード編』

そしてまた、『カードキャプターさくら』には劇場版も2作あるのですね。

『カードキャプターさくら』劇場版
  • 『劇場版カードキャプターさくら』
  • 『劇場版カードキャプターさくら 封印されたカード』

こちらもすべて制作は、マッドハウス。『カードキャプターさくら』と言えば、マッドハウスと言っていいでしょう。

ただ、『クリアカード編』までには長いブランクがありました。

放送時期は、

  • 『クロウカード編』:1998年~99年
  • 『さくらカード編』:1999年~2000年

となっていて、『クリアカード編』(2018年)は実に18年ぶりのテレビシリーズです。

アニメ化作品全体で見ると、本作以前の最新作は劇場版第2作『封印されたカード』になるのですが、それでも公開は2000年7月なんですよね。

  • 第1作:1999年8月公開
  • 第2作:2000年7月公開

実に17年半ぶりということになります。

こんなに歳月を経ているのには理由があって、実は『カードキャプターさくら』は、2000年の時点で一度完結しているのです。それも、続編を期待させるような終わり方ではなかったので、2016年に新章制作の発表を聞いたときは正直驚きました。

期待だけじゃなく、不安があったのも事実です。

何しろ、17年半ぶりですからね。制作会社、監督、キャストが同じということはわかっていても、やはりどこかで違いを感じてしまうのではないかと思ってしまったからです。

見たいのは、

「これまでとはまったく違う、真新しい『カードキャプターさくら』」

ではなくて、

「あの頃と少しも変わらない、思わず『おかえり』と言ってしまうような『カードキャプターさくら』」

なんですよね。

17年半という、生まれたばかりの子どもが高校卒業間近まで成長してしまう長大な時間の隔たりが、それを許してくれるのか。

果たして、そんな心配は第1話を見てすぐに吹き飛びました。

あの頃と、少しも変わっていなかったからです。

本当に、びっくりするくらいあの頃のままでした。懐かしすぎて、ちょっと泣きそうになってしまうくらいでした。

『カードキャプターさくら クリアカード編』概要

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『クリアカード編』まで

カードキャプターさくら』の主人公は、木之本桜(以下、さくら)。物語はさくらが友枝小学校4年生のときに、父・藤隆の書庫で不思議な本を見つけたことから始まります。

本には「クロウカード」という魔法のカードが収められていたのですが、それがさくらの住む友枝町(ともえだちょう)にばらまかれてしまいました。

カードの封印が破られると災いが起こる、と言われていることから、さくらは本から出てきた「封印の獣」ケルベロスとともに、身近で起こる様々な異変を解決しながら、カードを集めていくことになります。

……とここまでが、シリーズ第一弾『クロウカード編』の冒頭に当たる部分です。以降、『クロウカード編』では様々なトラブルを乗り越えてカードを集めていくさくらの姿が描かれていきます。

『さくらカード編』になると事情はまた少し異なってくるのですが、「カードを揃える」という基本的な行動は同じです。

『クロウカード編』『さくらカード編』のあらすじを書き始めるとすごい長さになってしまうので、ここでは省略します。

ただ、『クリアカード編』を見る前に、この2つを見ておくのは必須です。設定や登場人物が踏襲されているので、いきなり『クリアカード編』から見始めても(そういう人はあまりいないと思いますが)、付いていけないと思います。

話数がまあまああるので、大変ですけどね。

  • 『クロウカード編』:全46話
  • 『さくらカード編』:全24話

※『クロウカード編』は2期構成になっていて、第35話までが第1期、第36話以降が第2期となっています。

全70話の大ボリュームなのですが、実は『クリアカード編』につなげるにはこれだけでも不十分で、劇場版第2作『封印されたカード』も見ておくこともおすすめします。

こちらは『さくらカード編』の後日談になっており、『クリアカード編』は『封印されたカード』を前提に構成されている(と思われる)からです。

時間の流れがある

カードキャプターさくら』の世界は、いわゆる「サザエさん時空」ではありません。

登場人物たちは物語の中で、年齢を重ねていきます。さくらもいつまでも小学校4年生のままではありません。

劇場版も含めた各章のさくらの学年は、次の通りとなっています。

『クロウカード編』第1期小学4年生1~2学期
『劇場版 カードキャプターさくら』小学4年生冬休み
『クロウカード編』第2期小学5年生1学期
『さくらカード編』小学5年生2~3学期
『封印されたカード』小学6年生夏休み

なお、放送・公開の時期は一部この順番とは違っていて、『劇場版 カードキャプターさくら』(劇場版第1作)の公開は、『クロウカード編』第2期の後となっています。

(『クロウカード編』第2期が1999年6月に終了し、その後の1999年8月に劇場版第1作が公開されています。)

『クリアカード編』

劇場版第2作『封印されたカード』において、友枝小学校の6年生になっていたさくら。『クリアカード編』でさくらは小学校を卒業し、友枝中学校の1年生になっています。

クリアカード編』の冒頭は、登校初日。さくらにとってうれしいサプライズもある日なのですが、その夜に不思議な夢を見るのですね。

この「さくらが見る夢」は、『カードキャプターさくら』では重要な意味を持っています。さくらはとても強い魔力を持っているため、その夢が、これから起きる出来事の暗示となるケースも多いからです。

本作でもそれは同様で、目を覚ましたさくらは、夢の中に出てきたものと同じ鍵を握っていることに気が付きます。異変を感じ、「さくらカード」を確認すると、カードはすべて透明になっており、魔力も失われていました。

その後、『クロウカード編』や『さくらカード編』でもあった身近での不可解な出来事が発生するようになり、さくらは三度目のカード集めを始めることになります。

『カードキャプターさくら クリアカード編』レビュー

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新作なのに懐かしい

『クロウカード編』と『さくらカード編』をリアルタイムかそれに近い時期に見ていた人は、本作に懐かしさを感じるんじゃないかと思います。

新作なのに懐かしい、というのも変な話ですね。でも、さくらもケルベロスも、大道寺知世や、李小狼(しゃおらん)、李苺鈴(めいりん)といったさくらの友人たちも、みんな嬉しくなってしまうくらい、あの頃のままなんですよね。

17年半のブランクなんて、なかったんじゃないかと思ってしまうほどです。

時間を埋めるのに効果的だったのが、『さくらカード編』のオープニングテーマで、『カードキャプターさくら』の代表曲と言ってもいい「プラチナ」。第1話でBGMとして使われていたのですが、曲が流れてきた瞬間に『クリアカード編』とそれ以前の作品がぐっと近づいたような感覚がありました。

オールドファンに対するサービス以上のものがあったと、個人的には思っています。

極めて「健全」な物語

カードキャプターさくら』に対して私が抱いている一番の印象は、「極めて健全な作品である」というものです。

製作がNHKで、本放送の時間帯が子どもの目に触れやすい朝や夕方だったから、というばかりではありません。もちろん、健全な作品であればそうした条件は満たせないと思いますが、それは必要条件ではあっても、十分条件にはなっていないと思っています。

では、『カードキャプターさくら』のどこが健全な作品なのか。

その一番の理由は、「品性下劣だったり、悪意がむき出しのキャラクターは出て来ない」というところなんだろうと思います。

カードキャプターさくら』の主人公木之本桜(さくら)は、「無垢」です。

「無垢」とは「無知」のことではなく、「育ちの良さからくる素直さ」みたいなもののことです。さくらからは、擦れたところをまったく感じないのですね。

そうしたさくらの特性とでも言うべきものが、さくら個人に留まらず作品全体に浸透しているのが『カードキャプターさくら』です。

邪気をまったく感じない、と言ってもいいかもしれません。

実際には、教師と女子小学生の恋愛みたいな「んん?」と言いたくなる要素があることもあるにあります。

ただ、その場合もやはり品性下劣・悪意むき出しといったところはありませんから、全体として、『カードキャプターさくら』は健全な作品といっていいのだと個人的には思っています。

恋愛によって感じる成長

先ほど、「さくらは無垢だけど、無知ではない」と書きましたが、ここにそれが表れていると思います。

アニメに登場する無知な女性キャラクターの多くは、恋愛に対しても無知、もしくは鈍感です。「無知」という設定自体が、それを自然なものとするための演出であったりもします。

でも、『カードキャプターさくら』ではそうではありません。さくらの恋愛模様も、しっかり描かれているのですね。

この恋愛部分で本作が特に良いのは、恋愛対象を通じて、さくらの成長が感じられるところです。

『クロウカード編』の頃のさくらの恋慕の対象は、兄・桃矢の親友・月城雪兎(つきしろゆきと)でした。

雪兎は桃矢の同級生で、桃矢は当時高校2年生でしたから、小学校4年生のさくらより7歳年長ということになります。

ただ、この感情は恋愛というよりも、憧れといった方がふさわしいものでした。少女が年上の男性に抱きがちな、アレですね。

恋愛未満の、幼い感情と言えるんじゃないかと思います。でもさくらはまだ小学校4年生ですから、それでいいんですよね。

それが紆余曲折あって、中学生になった『クリアカード編』では、そうした気持ちが同級生の男子に向くようになりました。憧れが、地に足の付いた恋愛になったわけです。

これは、立派な成長です。

そしてまた、そうしたさくらの変化を見ることができるのも、『カードキャプターさくら』の大きな特徴だと思います。

シンプルな構造

カードキャプターさくら』の特徴の一つが、そのわかりやすい物語の構造です。

さくらの周囲で異変が起こり、それを解決してカードを手に入れるというのが基本的な流れ。

『クロウカード編』はばらまかれたカードを「集める」、『さくらカード編』は持っているカードを「作り変える」というように、方法による違いはあるものの、「カードを揃える』という点はどちらも同じでした。

さくらがカードを揃えている裏で、黒幕による動きがあるのもシリーズの特徴。カードによる異変の原因にもなっているのですが、「誰が黒幕で、どんな意図があるのか」はすぐには明らかになりません。

物語をけん引するのがこの謎部分で、同じ構造は『クリアカード編』にもしっかりと踏襲されています。

変身しない魔法少女

夢のお告げがあったり、魔法の発動に杖を利用したりと、「魔法少女」のステレオタイプを遠慮なく採用しているように見える『カードキャプターさくら』。

ただ、一つだけ大きな違いがあります。

さくらは変身をしないのですね。

コスチュームの変更自体はあります。しかしそれは親友・大道寺知世がこしらえた衣装に「着替える」というもの。

魔法の力で変身するわけではありません。

魔法の発動を意味する変身バンクは、杖の出現で代用しています。

シリーズごとに名前と形状の違う魔法の杖(『クリアカード編』では「夢の杖」)は、普段は小さな鍵の姿をしており、これを「レリーズ」の掛け声とともに元の杖の姿に戻す、という行為が魔法を使う前に行われているのですね。

「変身」ではなく「着替え」というのは、『カードキャプターさくら』のちょっとおもしろいところだと個人的には思っています。

これ、あえてそうしているように見えるんですよね。

変身させること自体は、できたと思うのです。杖を元の姿に戻すタイミングで、一緒に服装も変えてしまえばいいだけですからね。

「変身」ではなく「着替え」にした理由

理由の一つとして考えられるのは、「毎回違う衣装のさくらを見せられる」というものでしょう。

カードキャプターさくら』には美少女アニメの側面もありますから、さくらの様々な姿を見せることができるというのは作品の魅力向上につながります。コスチュームデザインの担当を置いていることからも、力の入れようがわかりますね。

もう一つ考えられるのは、「日常からの逸脱をできるだけ小さくする」というものです。

カードキャプターさくら』は、さくらの日常をとても丁寧に描いている作品です。

日常というのは、等身大の小学生、中学生としての側面のことです。それが学校や家庭での生活を中心にしっかりと描かれている。恋愛面に見られる成長もそうですね。魔法を使わない、普通の少女にも十分起こりうるような変化が描かれています。

中心にあるのはさくらの日常であって、魔法やカードもその一部に含まれている。

もちろん、魔法とかカードといった存在は、普通の日常ではありえないものです。それをできるだけ日常から遊離したものにしないためには、魔法の発動による非日常への接続の影響を小さくする必要があります。

ここは、ちょっとわかりにくいかもしれないですね。

一般的な「魔法少女もの」では、主人公やその仲間たちの「変身」をきっかけとして、

普通の日常 → 魔法や超能力が当たり前の非日常

という変容が発生しています。日常からの逸脱が起こっているのですね。

「日常からの逸脱」は『カードキャプターさくら』でも起こっている?

カードキャプターさくら』でも、同じことは起こっています。鍵を元の杖の姿に戻す、という行為がそうですね。

しかしながら、そこに「魔法による変身」という非日常的な事象を連動させないことで、日常から外れる範囲を極小化しているように見えます。

先ほど、コスチュームの変更を「変身」ではなく「着替え」で代用している、と紹介しました。実際にはさくらが着替えさえせずに、魔法を使って事態に対処する場面も、『カードキャプターさくら』では何度も出てきます。

さくらが制服や普段着のまま魔法を使うその姿は、魔法やカードが日常の一部であることの象徴と言ってもいいでしょう。

なお、この考え方を突き詰めていくと、「着替えもしなくていいのでは?」というところにたどり着いてしまいます。

そこは先ほど書いたサービスの面と、あとはお約束という側面もあったのだろうと思います。

コスチュームの変更がまったくない魔法少女というのも、それはそれで物足りなさがありますからね。

『カードキャプターさくら クリアカード編』まとめ

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カードキャプターさくら クリアカード編』は、『カードキャプターさくら』の17年半ぶりの新作アニメです。

カードキャプターさくら』未視聴の方が、いきなり本作から見るのはやめておいた方がいいでしょう)そんな人はいないと思いますが)。

前作までのキャラクターがかなり登場しますし、そこまでの視聴が前提で話が構成されているからです。

本作以前にテレビシリーズ2章、劇場版2作がありますが、見るなら劇中の時系列順に次の順番が良いでしょう。

  1. 『クロウカード編』
  2. 『劇場版カードキャプターさくら』
  3. 『さくらカード編』
  4. 『封印されたカード』
  5. 『クリアカード編』

劇場版第1作の時系列はクロウカード編の第1部と第2部の間ですが、第2部の後でも問題ないです。

なお、『クリアカード編』は実は完結まで描かれておらず、続編の制作が2023年4月に発表されています。

カードキャプターさくら』が気になる方は、そちらが始まる前までに5作品を見ておくといいんじゃないかと思います。話数が結構あるので、大変ですけどね。

タイトルテレビ
『カードキャプターさくら クロウカード編』
『カードキャプターさくら さくらカード編』
『カードキャプターさくら クリアカード編』
劇場版
『劇場版カードキャプターさくら』
『劇場版カードキャプターさくら 封印されたカード』
放送・公開テレビ
『クロウカード編』
 第1期:1998年4月7日-12月29日
 第2期:1999年4月6日‐6月22日
『さくらカード編』
 1999年9月7日‐2000年3月21日
『クリアカード編』
 2018年1月7日‐6月10日
劇場版
第1作:1999年8月21日
第2作:2000年7月15日
放送局NHK 衛星第2テレビ、BSプレミアム等
話数『クロウカード編』
 第1期:全35話
 第2期:全11話
『さくらカード編』:全24話
『クリアカード編』:全22話
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この記事を書いた人

アニメとサッカーを見るのが好き。
累計視聴数は400本を超えていて、今も増え続けています。

作品を見て、感じたこと、考えたことを書いています。