ちょっと前に、『黒執事 Book of Circus』というアニメを見た。
この作品、人気シリーズ『黒執事』の第3期に当たる。第1期が『黒執事』で、第2期は『黒執事Ⅱ』だ。
……別に間違ってはいない。『黒執事 Book of Circus』は確かに『黒執事』の第3期だ。wikipediaにもそう書いてある。
そもそも、『黒執事Ⅲ』という作品は存在しないのだ(少なくとも、2025年6月時点では)。
世の中には「1期と2期が未視聴の状態で、いきなり第3期から見始める」という剛の者もいるようだ。でも僕は、そんな豪傑ではない。順を追って、最初からきちんと見ていきたいタイプの人間だ。
その点、本作はクリア済みである。第1期『黒執事』も、第2期『黒執事Ⅱ』もしっかり最後まで見ている。
ただ問題は、それが随分昔の話だということだ。
調べてみたら、第2期を見たのは10年以上前だった。
前作の内容を忘れてしまっている
一応、誤解のないように断っておくと、第2期と第3期の放送時期に10年以上のブランクがあった、ということではない。
- 第2期:2010年7月~9月放送
- 第3期:2014年7月~9月放送
なので、実際のインターバルはおよそ4年である。オリンピックやサッカーW杯なんかと同じだ。
4年も決して短くはないが、10年越えと比べたらはるかにマシだろう。
空白が生じた理由は、特にない。格好つけて言うなら「寝かせていた」ということになるが、寝かせたところで熟成するわけもないのだから詭弁である。ただ何となく見る気が起きなくて、録画したまま放置していただけだ。これ以上なく見事な、怠慢の産物である。
「空白期間」のもたらす弊害
実はこの手の「録画はしたけど見ないままになっている作品」が、僕の録画HDDの中には山のように積み重なっている。
それらをちまちま消化する、という作業を昨年あたりから続けているのだけど、悩ましいのが本作のように「前作視聴から期間が開きまくっている作品」が発掘されたときのことだ。
前作までの記憶が薄れてしまっていることが、非常に多いのである。
何もかもすべてということは、さすがにない。そこまでポンコツにはなっていないつもりだし、本作でも主人公が執事のセバスチャン・ミカエリスで、その主人がシエル・ファントムハイヴということくらいは覚えている。
でも細かい部分になると「何だっけ?」が大量発生してしまうのだ。我ながら情けない記憶力である。
復習には「覚悟」が必要
こういうとき、考えられる選択肢は2つある。
- 作品を十二分に堪能するため、過去作すべてを見直す
- 見ているうちに思い出すことに期待して、視聴を強行する
理想はもちろん1だ。忘れているなら、復習する。学生時代から散々叩き込まれてきた、基本動作である。まさに優等生の回答だ。
でも、そんなことは初めからわかっているのだ。
問題は、1の決行にはそれなりの覚悟が必要になる、ということなのである。過去作を見直すには、多大な時間と労力が必要になる。
仮に過去作が1クール13話の作品1本だけだったとしても、
30分×13話=390分
の確保が必要になる。390分というと、6時間30分だ。羽田からダナンあたりまでフライトできてしまう時間である。
「録画ならCMは飛ばせるから、実際にはもっと短いだろ!」という指摘もあるだろう。そこでCMを除いた、1話約24分で計算してみる。
24分×13話=312分(5時間12分)
これでも5時間は超える。ダナンは無理でも、同じベトナムのハノイあたりまでは飛べる時間だ。
しかも今回話題にしている『黒執事』の前作は、1クール全13話などという最小単位ではない。
第1期だけで2クール全24話。第2期の1クール全12話を加えると計36話になる。
1話24分で計算して見ると、
24分×36話=864分(14時間24分)
となる。驚きの14時間越えだ。これだとワシントンDCまで飛べてしまう。太平洋を横断できてしまうという、なかなかのロングフライトだ。
まだ見ぬ未知の作品を見る、というなら、このくらいの時間をかけてもちっとも惜しくはない。おもしろい作品であれば、という条件は付くけど。
でも、失われた記憶を取り戻すための「復習」のためにこれだけの時間を投入するのは、忙しい現代人にはちとツラい。
ワシントンに向かう飛行機の中で見る、とかなら良いのかもしれないが、そこまで出向く用事は今のところ僕にはない。
そんなこんなで、最善だとわかっているにもかかわらず、「1.作品を十二分に堪能するため、過去作すべてを見直す」を選ぶのにためらいが生まれてしまうのである。
似たようなケースはマンガでも
この「新作までに時間が開き過ぎて、それまでの内容が忘却の彼方に飛び去ってしまう問題」は、何もアニメだけに限った話ではない。
マンガでも、同じようなケースが頻発している。
僕は基本的に、雑誌でマンガは読まない。気に入った作品は単行本が出るたびに買って読んでいる。
このやり方の場合、新巻が発売されるまでの間隔が開いていたり、発売されていることに気が付かず買いそびれたりしていると、直前までの内容を忘れてしまっている事態が発生する。
そんなとき頭に浮かんでくる選択肢は、アニメのときと同じだ。
- 作品を十二分に堪能するため、過去作すべてを読み直す
- 読んでいるうちに思い出すことに期待して、視聴を強行する
ただ不思議なことに、マンガの場合はアニメと違って、そんなに悩まずに1を選択することができる。それなりに巻数がある長期連載の作品であっても、1巻から読み直すことにそれほど心理的な抵抗は感じない。
この違いはどこにあるのだろう、と考えてみたのだが、1つにはまず「自分で時間をコントロールできる」というのがあるのではないかと思う。
「時間をコントロール」というと、何だかスタンド能力みたいだが、要は「自分で読むスピードを決められる」という意味だ。
200ページの単行本を1冊読むのに、かかる時間は人によって違っている。20分で十分な人もいれば、40分かけるという人もいるだろう。同じ長さの物語を読むのに、どのくらい時間をかけるかを自分で決めることができる。
すなわち、読む時間を自分でコントロールしているわけだ。
これがアニメだと、そうはいかない。
1話24分は、誰にでも平等だ。自分のペースで変えたりはできない。
この「自分では制御できない」ところが、心理的なハードルにつながっているのではないかと思う。
※「いやいや、倍速視聴すればアニメでも時間のコントロールができるでしょ!」と思われる方もいるかもしれないが、あのやり方は映像作品を見たことにはならないと思っているので、ここでは対象外としている。
スキマ時間に読むこともできるし、すぐに中断もできる
「中断しやすさ」というのも、関係しているように思う。
アニメと比べてマンガは、途中で読むのを止めやすい。1話がそんなに長くないからだ。
細かい区切りがたくさんあるのと同じだから、スキマ時間に読むこともできるし、すぐに中断もできる。
これがアニメだと、なかなかそうはいかない。
1話24分をぶつ切りで見ることもできなくはないが、それは本来の見方ではないと思うからだ。1話分はしっかり、途切れることなく最初から最後まで見通したい。
でもそれだと、少なくとも25分程度のまとまった時間の確保が必要になる。これがまた心理的なハードルになってくる。
最善策は「マンガで復習」?
こうして考えてみると、最も良いのは「マンガで過去の話を振り返ることなのではないか」と思えてくる。幸い、『黒執事』の原作はマンガだ。
アニメの続編を見るために原作マンガを読む、というのもちょっと変な話だが、物語や設定を思い出すだけなら、それもありなのかもしれない。
そんなことを考えながら、改めてwikipediaを眺めていたら、次の記述を見つけた。
過去のアニメ2作品とはストーリー・設定の一部がつながっていない。
どうやらそんなに真剣に第1期、第2期の内容を思い出そうとしなくても、よかったようである。