少し前から、しこたまたまっていた「積録」の消化を始めている。
「積録」とは、「録ったはいいけど見ていない番組たち」のことだ。「積読」の録画版である。聞きなれない言葉なのは、当たり前だ。僕が勝手にそう呼んでいるだけだからだ。
中身はアニメと、映画が少し。アニメは2010年代半ば~後半に放送されていたものが大半だ。
これがHDDにして10TB以上、たまっていた。今は少し減っているが、それでも9TBは残っているだろう。よく録画したものだし、よくも放置し続けたものだと我ながらその怠けっぷりに感心している。いったい何をやっていたんだ、と過去の自分に問い詰めたくなる。
「録画がたまりすぎると見る気がなくなって消してしまう」という人も世の中にはいるようだ。でも、僕はそんなことはしない。一度飼い始めたペットは最後まで面倒を見るべきだし、録画した番組は一度は見るべきだと思っている。どのくらい時間がかかるかはわからないが、とにかく全部見るつもりでいる。
そんなわけで、24時間テレビのチャリティーランナーよろしく、誰に求められてるわけでもない「積録消化マラソン」を孤独に走り始めた。でも、ただ走るだけではつまらないので、視聴日記みたいなものを残していこうと思っている。
今回は、その記念すべき第1回になる。
取り上げるのは、『京騒戯画』。2013年に放送された作品だ。
【1日目】第0話を見る
意味不明、のひと言に尽きる。
何を見せられているのか、さっぱりわからなかった。かろうじてわかったのは、
- 巨大なハンマーを持ったセーラー服姿の少女が主人公らしい
- 京都によく似た町が舞台であるらしい
- 鮮やかな色彩と派手なアクションに特徴がある作品らしい
ということくらいだった。既に完成している作品の中盤くらいまでを抜き出して、エピソードの断片をつなぎ合わせたような内容にも見えたが、説明が一切ないので、何のことやらさっぱりわからない。せめて、ナレーションくらいつけてほしい。
そもそも、第0話という話数表記からしておかしい。初回は普通、第1話だ。
サブタイトルは「予習篇」になっている。予習なのでわからなくもいい、次回以降の本編で理解できれば何の問題もない、ということなのだろうか。
きっとそうだ、そうに違いない、と自分に言い聞かせながら、初日の視聴を終える。
【2日目】第1話と第2話を見る
世界設定と、大体の状況が明らかになる。
どうやらこの作品は「鏡都」という、絵に描かれた世界に移住してきた家族の物語らしい。元々は5人家族だったが、両親はずっと昔に鏡都を去っており、残された3人の子どもたちが鏡都を治めている。そこにやってきたのが、第0話で大暴れしていたハンマーセーラー服少女で、彼女の登場で物語が大きく動く始める、ということのようだ。
第0話よりはわかりやすい。やはり、ここからが本編だと確信する。
ただ、親切とは言い難い。
相変わらず、見せられているのは断片ばかりだからだ。欠片を拾ってつなぎ合わせるのに、頭を使う。またよくないのが第0話を見たことで、この先出てくるであろう場面の知識が中途半端に入ってしまっているところだ。
「この話はもう出てきてるんだっけ? まだ? どっち?」と混乱する。
正直、第0話は見ない方が良かったんじゃないかと思ってしまう。
キャラクターもややこしい。家族の父親は「明恵上人」という僧服姿の男なのだが、末っ子の名前も「明恵」で同じように僧服を着ている。さらに「稲荷」という、ハンマーセーラー服少女の師匠のような人物も出てくるのだが、こちらは明恵上人と声が同じなのである。「声が同じ」ということは、同一人物なのだろうか。でも、稲荷は白い半ズボンの学生服にブーツみたいなのを履いていて、明恵上人とは全然格好が違うんだけど。
なお、似たパターンはもう一つあって、家族の母親と、ハンマーセーラー服少女がそれ当たる。前者は古都(こと)、後者はコトで名前の読みが同じだ。ただ、こちらはビジュアルがまったく違うので、「明恵上人」と「明恵」のように「んん?」と思わされるほどではなかった。
【3日目】第3話から第5話まで見る
3人の兄弟それぞれとコトとのエピソードが、1人一話を使って描かれている。
第3話が長男鞍馬、第4話が次女八瀬、第5話が三男明恵だ。
「おいおい、子どものカウントの仕方間違ってるぞ。長男、長女、次男だろ?」と言いたくなるところだが、そんな常識はこの作品には通用しない。そもそも、順番からしておかしいのだ。鞍馬が最初の子供というわけでもないのである。両親の元に最初にいたのは三男の明恵で、鞍馬と八瀬は後から登場しているのだ。
このあたりのちょっとしたズレも、鏡都という町が漂わせる幻想的な雰囲気を作り出すのに一役買っているように思う。とにかく独特の世界観を持った作品で、普通があんまり普通ではないのである。
兄弟3人に共通しているのは両親の帰還を求めていることで、鞍馬と明恵は父である明恵上人、八瀬は母親の古都に対する思いが強い。そして彼らはどうやら、外からやってきたコトがそのカギを握っていると考えているようだ。
【4日目】第6話、第7話、第8話を見る
第5話と第6話の間に、第5.5話「京都実録篇」なる回が挟まっていたが、こちらは華麗にスルー。サブタイトルそのまま、モデルとなった京都の寺などを実写で紹介する回だったようだが、本編の視聴に影響がなさそうなのでスキップさせていただいた。僕はアニメが見たいのだ。
第6話あたりから、物語が動き始める。鞍馬と八瀬が、コトを利用して母を呼び戻そうとしたことがきっかけだ。
どうしてコトの力を使うと母親が取り戻せるのか、その論理は全然わからない。ただまあそれを言い出すと、そもそも「絵の中の世界に移住する」というこの作品の始まりからして意味不明なので、深くは考えないことにする。
素性が明らかにされた3兄弟と違って、よくわからないままなのがコト。3兄弟の母親・古都と名前が同じだし、彼女も家族なんじゃないだろうか、などと考えているうちに、話が急に宇宙規模に拡大して、鏡都の真実なんかも明らかになっていく。
これまで何だかよくわからないまま、「そういうものなのだろう」と受け入れてきた事柄が一気につながっていく。頭の中が、急に開けていくような気分だ。
何となく、この作品は家族の物語なんだろうなと思っていた。でもそれだけでは認識が甘くて、実際には家族と全宇宙の物語だったようだ。家族と全宇宙。最小単位から最大単位への拡大みたいでインフレ感がすごいが、どうもそれが真実みたいである。
【5日目】第9話と第10話を見る
クライマックスである。前半は、稲荷劇場だ。
第9話に、稲荷のとんでもない長ゼリフが登場する。世界の理とやらを説明しているようだが、とにかく長さばかりが気になってしまう。そこから始まる稲荷の行動は完全なるご乱心で、一人で長々喋らされたことに疲れてムカついてきちゃったのかな、なんて思っているうちに、世界の崩壊が始まる。ついでに稲荷の正体とその目的も明らかになるが、その内容に「暇を持て余した、神々の遊び」という言葉が頭を過ぎる。あれをやっていた芸人、何ていうコンビだったっけ?
そんなラスボス稲荷に立ち向かうのはもちろんコト。あと、鞍馬と八瀬に励まされて覚醒した明恵も付いてくる。あとは何やかんやあって、天上界みたいなところまで行ったりするけど、最後は「やっぱり家族は一緒がいいよね、鏡都こそがぼくたちの家だよね」みたいな話でなかなか感動的にまとまっていた。
「家族の物語」であることは結構早い段階でわかるが、最後までそれがぶれないのがいい。元々の五人に含まれていなかったコトの活躍や、「愛」について語った内容も印象的だった。
おわりに
本作の構成だが、本編は『サザエさん』と同じになっている。「さ~て、来週のサザエさんは?」でおなじみ、一話3エピソードの構成だ。
もっとも、『サザエさん』は1エピソードごとにオチを作って完結してくれるが、本作はそうはいかない。そのせいもあって断片的な印象が生まれてしまい、やや難解な印象も与えているように思う。
「本編は」と断っている通り、これが当てはまらなかったのは第0話だ。第5.5話は見ていないので知らない。
あと、第10話の後に第10.5話というのもあるのだが、こっちも見ていないのでわからない。サブタイトルが「復習篇」だったので、まあ見なくても大丈夫だろうと思ってスキップした。
これから『京騒戯画』を見ようと思っている人に伝えたいのは、第0話は飛ばした方がいいと思う、ということ。スタートは第1話でいい。「2日目」でも書いたが、第0話を見て中途半端に知識を入れてしまうと、序盤はかえって混乱すると思う。
「全部見ないと気が済まない」というのであれば、第10話まで見てからの方がいい。初見だとまったくわけがわからないが、10話まで見た後ならそんなこともないので。
なお、『京騒戯画』の第0話は公式で無料公開されている。こちらから見られるので、興味のある方はどうぞ。