世の中には、「パソコンよりスマホの方が、文章を書くツールとして使いやすい」という人がいるらしい。
まったく理解できない感覚である。どう考えたって、パソコンの方が使いやすい。画面はパソコンの方が大きいし、文字だってキーボードの方が入力しやすい。フリック入力よりブラインドタッチの方がスピーディなんてことは、天地がひっくり返ったってありはしないだろう。そもそもフリック入力自体、そんなに早く文字が打てる方法でもない。あれなら手書きの方が速いくらいだ。
速度を競うなら、
キーボード > 手書き ≧ フリック入力
になるはずだ。
慣れているのはパソコンか、スマホか
「なるはずだ」と思い切りイキってみたが、こんなものは所詮僕の主観である。手書きよりフリック入力の方が速い、という人もいるだろうし、一番速いのはフリック入力だ、という人だってもちろんいるだろう。
僕がキーボードを一番と考える理由は、それが一番慣れたツールだからだ。そして、これは多分なのだけれど、フリック入力の方が速いと考える人たちも、同じなんじゃないかと思う。
パソコンに慣れた人は「キーボードが一番速い!」と感じるだろうし、スマホに慣れた人は「いや、フリック入力が一番だ!」と感じるのだろう。
「慣れ」は、その人の感覚の一部をも形成するのである。
無意識の拒絶
話は変わるが、僕は3DCGアニメがあまり得意ではない。
「少しでも3DCGを使っていたらNG」というほどではない。そんなこと言い出したら、ここ20年のロボットアニメはまったく見ることができなくなってしまう。
得意でないのは、いわゆるフル3DCGアニメだ。キャラクターを含めた、すべてをCGで作ってあるような作品がそんなに好みではないのである。
そういう作品の中に、評価の高いものがあることもわかっている。でもどうにも、食指が動かないの。フル3DCGと聞いただけで、無意識の拒絶が働いてしまうのである。
フル3DCGアニメに対する否定的な意見には、「動きが気持ち悪い」「無機質」「キャラクターがマネキンみたい」というものがあるらしい。それらもまあわからなくはないのだが、僕の感じるこの謎の拒否感はそれが理由ではないような気がしている。
というのも、そういった印象が比較的小さいアメリカの3DCGアニメ映画を見ても、この「何となく拒絶」は顔を覗かせてくるからだ。これはきっと、理屈の問題ではないのでないか、と僕は踏んでいる。
おそらくは長く親しんできたいわゆる「2Dアニメ」への慣れが免疫のように働いて、異物と認識したフル3DCGアニメを体内に侵入してきたウィルスのように排除しようとしているのだろう。
3DCGアニメ会社の10周年記念作品
そういう苦手意識を自覚しているので、HDDに録画してあるおびただしい作品群の中に『ブブキ・ブランキ』を見つけたときはびっくりした。何がびっくりしたってこの作品、制作が「サンジゲン」なのである。
「サンジゲン」といえば、様々な作品でその名を見かける、日本の3DCGアニメ制作会社だ。しかも調べてみたところ、その会社の10周年記念作品だというのである。3DCGアニメ制作会社の、10周年記念作品。これがフル3DCGでないわけがない。
そういう作品を、過去の自分はどういうつもりで「録画しておこう!」と考えたのか。毎度のことで本当に情けない話なのだが、これについてはまったく記憶がない。まあ、覚えていないくらいなのだから、そんなに深く考えてはいなかったのだろう。「何となくおもしろそう」くらいの、軽い気持ちだったに違いない。
サンジゲンの10周年記念作品ということについても、多分把握していなかったんじゃないかと思う。
その程度の軽い気持ちで録ったものなら、別に見なくても良さそうなものだ。だが、そうはならないのがまた、自分でも困っている僕の厄介なところだ。何しろ貧乏性なので、一度手に入れたものを簡単に捨てることができないのである。
「せっかく録画したんだし、見ておかないともったいない」という、みみっちい考えが起こってくるのだ。それにフル3DCGアニメは得意じゃないというだけで、医者に止められてるわけでもない。フル3DCGアニメを見たからって、体中がじんましんだらけになって一晩中もだえ苦しむ、なんてことにはならないのである。
結局、見ることに
というわけで、見ることにした。
本作は分割2クール作品で、第1期が2016年の1月から3月、第2期が同じ年の10月から12月に放送されている。1期、2期ともに12話で、全24話の作品だ。
最初に見つけたのはは第1期だったので、「2期はあるのか?」と探したところ、そっちもしっかり録画されていた。どんな作品かも十分把握していなかったくせに、そういうところだけは妙にしっかりしていたりするのである。ちなみに第2期は、タイトルの後ろに『星の巨人』という言葉が追加されている。『ブブキ・ブランキ 星の巨人』だ。
見始めてみると、思ったほどフル3DCGでないことがわかった。いや、フル3DCGであることは間違いないのだが、ディズニーとかピクサーとかが作っているような、「ザ・3DCG」という感じではなかったのである。
2Dに寄せた3DCGアニメのことを「セルルック3DCGアニメ」と呼ぶらしいが、本作もどうやらその技術が使われている様子で、かなり2Dアニメに近いものになっている。
違和感は「ザ・3DCG」な作品と比較すると、格段に小さかったと言える。でも、じゃあ2D作品とまったく同じかと聞かれたら、さすがにそうとまでは言えなかった。2Dアニメに慣れ親しんだ目からすると、本作からもやはり「違う」という感じは受けてしまったのだ。
当然だが、2Dが正解で、3DCGが不正解なんてことはまったくない。2Dか3DCGか、というのは、表現方法の違いに過ぎないからだ。
この「違う」というのも、所詮は僕の感覚である。
僕は2Dアニメの方に慣れているが、「フル3DCGアニメ」や「セルルック3DCGアニメ」に慣れ親しんでいる人からすると「違ってはいない」のかもしれない。いやむしろ、2Dアニメの方こそが「違う」と感じるのかもしれない。
2Dアニメに慣れ親しみ過ぎてしまっている僕には、そのあたりがもうよくわからなくなってしまっている。
事程左様に「慣れ」とは、人の感覚に影響を与えるものなのである。