『スクライド』感想・レビュー|「男なら拳で語り合おうぜ!」を地で行く、インパクト抜群の作品

スクライド
サンライズ 2001
監督:谷口悟朗
脚本:黒田洋介
キャラクターデザイン:平井久司
音楽:中川幸太郎
キャスト:保志総一朗・緑川光・田村ゆかり・永島由子・山崎たくみ

スクライド』を一言で表すなら、「とにかく強烈な作品」ということになります。

何が強烈って、「拳で語り合うことこそ最上」と考えるようなマッチョな男らしさを、これほど前面に押し出してくる作品は他にないというところですね。

その「男らしさ」の権化のような存在が、主人公のカズマです。

彼の頭にあるのは「自らの前に立ちふさがる壁は、自らの拳で粉砕する」ただそれだけ。そのカズマのライバルが劉鳳で、こちらも自らの信じる正義のためであれば、力の行使を少しもいとわないという人物です。

カズマと劉鳳は、生まれも育ちも価値観もまったくの正反対といっていい存在です。しかしながら、互いにその実力は認めあっている。「この男を倒したい」という思いも一致しており、顔を合わせれば戦いにしかなりません。

常人には理解しがたいこの衝動は、「どうしてそこで戦いが始まるの?」と思わせるような場面すら生み出すことがあり、それがために異常な熱も生みます。

でも、この「何だかわからない暑苦しさ」こそが『スクライド』の真骨頂でもあるんですよね。

スクライド』を楽しめるかどうかは、この熱量についていけるかどうかにかかっています。といっても、そんなにハードルの高いものではないので、「細かいところが気になりまくる性格」とかでなければ、十分に楽しめる作品だと思います。

シンプルなだけにインパクトの強いカズマ

スクライド』を象徴するキャラクターといえば、既に書いた通り主人公のカズマです。

彼の生きざまが、そのまま作品の熱へとつながっています。

ただ、彼がどういう素性の人物なのかは、実際にはよくわかっていません。何しろ、カズマ自身が自分のことをあまり知らないくらいですからね。

その一例が、彼の名前です。『スクライド』の登場人物は皆、名字と名前を持っているのですが、彼には名字がありません。ただの「カズマ」です。そしてそのカズマという名前も、本名かどうかわかっていないのです。

カズマは過去についても、ほとんど触れられることがありません。わかっているのは、

  • 短気で好戦的な性格
  • 強力なアルター能力者
  • 由詫かなみという少女を保護している
  • 相棒は君島邦彦

ということぐらい。正体不明、というのが正しいくらいのキャラクターになっています。

しかし、過去や背景に乏しいからカズマが薄っぺらかというと、そんなこともないのですね。「拳一つで自分の道を切り開いていく」という生きざまには、太い芯のようなものすら感じられます。

過去や背景といった要素は、むしろ描かれないでよかったのかもしれません。

「深い理由はない。でもそれを貫き通す」

そんなシンプルさが、かえってカズマの生きざまを際立たせているようにも思えるからです。

「アルター能力」も生きざまを投影

「アルター能力」とは、『スクライド』における特殊能力のことです。アルター能力者は「アルター使い」とも呼ばれ、その発現の仕方は人によって違います。

カズマの場合、髪が逆立ち、右腕が装甲に覆われ、背中に小さな赤い羽根三本が生える、というのが能力発動時の姿です。ただ、基本的な攻撃手段は「拳で殴る」であり、その点は能力発動前と変わりはありません。威力は段違いですけどね。

アルター能力発動時のカズマは、背中の羽根を一本ずつ消費することで弾丸のように相手に突進し、強烈な一撃を見舞うこともできます。

この一撃はカズマの必殺技になっており、一発ごとに、

  • 衝撃のファースト・ブリッド
  • 撃滅のセカンド・ブリッド
  • 抹殺のラスト・ブリッド

という名前まで付けられています。

少々「中二病」っぽさを感じさせる名前ではありますが、そこが『スクライド』らしいとも言えます。技を繰り出すときに、必ずこの名を叫ぶところもそうですね。

この技、一発ごとに違う名前が付いてはいるのですが、違いがあるわけではありません。その内容はいずれも「直線的だが尋常ではない勢いで、自らの体ごとぶつかっていくような攻撃」であり、カズマの生き方がそのまま投影されているようなものになっています。

実はカズマと同類の劉鳳

スクライド』のもう一人の主人公と呼んでいい存在が、劉鳳です。

彼はアルター使いを取り締まる「HOLY(ホーリー)」の一員として登場し、カズマと何度も拳を交えることになります。

ともに高いアルター能力を持つカズマと劉鳳は、互いに認め合うライバル同士。でもカズマと違って劉鳳は、正体不明の存在ではないのですね。

劉鳳は名家の子息であり、もちろん名字はあります(「劉」が名字)。また、過去や背景がほとんどわからないカズマと違って、「HOLY」に入隊するきっかけや、幼い頃の桐生水守との出会いなどもきちんと描かれています。

二人は性格も真逆であり、短気でけんかっ早く、本能のおもむくまま行動しているようなカズマに対して、劉鳳は真面目で思慮深く、自ら信じる正義に従って行動しています。

ただ、では「野性的なカズマと理性的な劉鳳」という単純な構図に当てはめられるかと言えば、そうはいかないのが『スクライド』というのおもしろいところなんですよね。

劉鳳の「自らの信念に従う」という生き方は、聞こえはいいのですが、よくよく考えてみるとそれって「自分のやりたいようにやる」と言ってるのと同じです。

カズマはそのまま、自分の生きたいように生きていますから、二人は深いところでは一致しています。二人は、本質的には同類というわけですね。

そのことは、劉鳳自身も無意識のうちに理解しているようで、カズマに対する意識は他のアルター使いと違って強いものがあります。彼自身はカズマほど好戦的な性格ではないのですが、相手がカズマのときだけは例外的です。自ら戦いを求めてしまうのですね。

もちろんカズマもそれに応じます。

そうした二人の関係は、まさに「拳での語り合い」そのもの

強大な敵に立ち向かうカズマと劉鳳の姿も、描かれてはいます。ですが、そうした物語の部分よりもむしろ「顔を合わせたら、戦わずにはいられない」という二人の関係、その衝動と熱量こそが『スクライド』という作品の一番の魅力であると思います。

この「暑苦しさ」についていける人にとって、『スクライド』はクセになる作品なんじゃないかと思います。

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アルター能力と「錬金術」

スクライド』に登場する特殊能力「アルター」は、一般的なの超能力とは少し違った特徴を持っています。

それは「物質を分解し、再構成して別のものに作り変える能力である」というところです。そのためアルター能力の発動時には、素材となった近くの地面がえぐれたり、物が消滅したりします。

ここまで読んで、ある作品のことを思い出した人もいるかもしれません。『鋼の錬金術師』です。

『鋼の錬金術師』に登場する「錬金術」も、「物質の分解と再構成」が基本的な原理です。アルター能力と同じですね。ただ、この二つの特殊能力の類似はそれだけでなく、物語が進むことで明かされるアルター能力の秘密にも「錬金術」と似たところがあります。

具体的な内容の紹介はここでは避けますが、気になった方はぜひ二つの作品を比べてみてください。

どちらかが影響を受けている?

設定の類似があると、「どちらかがどちらかの影響受けているのかな?」と考えたくなるのは、自然な発想かと思います。

ただ、『スクライド』と「鋼の錬金術師』については、どうもそれはなさそうに思いました。

というのも、この二つの作品、始まったのがほぼ同じ時期なんですよね。

  • スクライド』 :2001年7月放送開始
  • 『鋼の錬金術師』:2001年8月号連載開始

同じタイミングで、同じような設定の能力が登場しているというのは興味深い点ですが、少なくともどちらかの作品を見て、どちらかの作品が作られたということはないと思われます。

サブキャラクターも個性的

主人公のカズマと劉鳳が強烈すぎる光を放つ『スクライド』ですが、サブキャラクターの個性が強めなのも特徴の一つです

カズマと劉鳳に、決して負けていません。

早口に思わず耳を傾けてしまうクーガー

アクの強いサブキャラクターの筆頭が、ストレイト・クーガーです。

クーガーは劉鳳と同じホーリーの隊員であり、「ラディカル・グッドスピード」という、乗り物を自分専用の超高速仕様に作り変えるアルター能力を持っています。

彼の特徴は、その能力からも明らかなようにとにかく速さにこだわっている、ということ。そのこだわりは、移動やバトルのときのスピードにとどまらず、話し方にまで及んでいます。

特に目を引くのが、桐生水守に言い寄るときや、テンションが上がったときなどに早口で持論をまくしたてる姿。相手が聞いているかどうかはまったく気にせず、自分に酔っているようなその様子は、何度も見たくなるようなコミカルなところがあります。

水守に片思いをするクーガーですが、水守は劉鳳しか見ておらず、まったく相手にされていません。何しろ、片思いと言いながら毎回水守の名前を間違えて読んでいるくらいですからね。

得意の早口に至っては、相手を顧みない一方通行ぶりがあきれられてもいます。

その滑稽さから、クーガーは物語の道化役と言えます。ただ、それだけで終わらないのが、クーガーというキャラクターなのですね。劉鳳を探す水守をこっそり手助けしたり、血気に逸る劉鳳やカズマをいさめたりといった、頼れる部分も多くあります。

そしてまた、戦闘能力も高い。バトルシーンは多くはないのですが、その描写からカズマや劉鳳に匹敵する能力の持ち主であることがうかがえます。

ストレイト・クーガーは、基本的には愉快な人物です。でも、それだけではない、みんなの頼れるアニキ的な存在でもあるのが、このキャラクターの魅力と言えると思います。

シェリスの献身

「男」を前面に押し出した物語である『スクライド』ですが、男しか登場しない物語というわけではもちろんありません。

既に名前の出ている由詫かなみ、桐生水守の他に、シェリス・アジャーニも主要な女性キャラクターとして登場します。

かなみ、水守、シェリスの三人は、それぞれカズマ、劉鳳と近い関係にあります。

その立場は三者三様で、大きく分けると、

  • かなみ :守られる存在
  • 水守  :追いかける存在
  • シェリス:捧げる存在

ということになるでしょう。

この三人、存在感はありますし、物語の中でそれなりに重要な役割を担ってもいます。ですが、カズマや劉鳳への影響力というと、残念ながら大きいとは言えません。あくまで我が道を突き進む二人に対して、彼女たちにできるのは見守ることくらいだからです。

そんな三人の中で、ひと際目を引くのがシェリスです。

報われない思いであることがわかっている

シェリスは劉鳳と同じ、ホーリー隊員です。過去に劉鳳に救われたことがあり、そのため彼を慕っています。

同じように劉鳳に想いを寄せる女性として、幼馴染の桐生水守もいます。ただ、彼女はアルター能力者ではないため、ホーリーに所属はしていません。

また、幼馴染とはいうものの、水守と劉鳳と一緒に成長してきたわけでもありません。離れていた時間も長く、作品冒頭で久しぶりに再会します。

シェリスは水守が現れる前から、劉鳳と一緒に働いていました。彼女からすると、水守は突然現れたライバルに見えるでしょう。「負けたくない」という思いの強さから、水守に冷たく当たることがあってもおかしくはありません。

しかし実際には、そこまで露骨に水守を敵視した言動は、シェリスからは見られないのですね。ゼロではないのですが、控えめです。

彼女の態度から受けるのはむしろ、劉鳳と水守の絆の強さを見抜いているような印象です。劉鳳の気持ちが水守に向いていることもわかっており、それがために、自分の想いが報われないことを理解している。そんな風にも感じられるのですね。

でも、シェリスの劉鳳に対する態度は変わりません。あくまで一途です。

そしてその一途さが、終盤に大きな衝撃をもたらします。

これについては『スクライド』という作品の一つのクライマックスになっていますので、ぜひ自分の目で確かめていただければと思います。

最後に

冒頭でも書きましたが、『スクライド』はなかなか強烈でアクが強い作品です。

一度見たら忘れられない作品でもあるので、まだ見たことのない方はぜひ一度、触れてみると良いんじゃないかと思います。

何話か見ているうちに、「衝撃のファースト・ブリッド!」というカズマの雄たけびがクセになっているかもしれません。

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この記事を書いた人

アニメとサッカーを見るのが好き。
累計視聴数は400本を超えていて、今も増え続けています。

作品を見て、感じたこと、考えたことを書いています。