『LAST EXILE』感想・レビュー|そこはかとない「気品」を感じさせる飛空艇乗りの物語

LAST EXILE
GONZO 2003
監督:千明孝一
脚本:千明孝一、冨岡淳広、神山修一、山下友弘
キャラクター原案:村田蓮爾
キャラクターデザイン:堀内修、ムラオミノル、田中雄一
音楽:Dolce Triade
キャスト:浅野まゆみ・斎藤千和・白木杏奈・森川智之・野田順子

今回は『LAST EXILE』です。

2003年4月から9月にかけてテレビ東京ほかで放送された、GONZO制作のアニメです。

個人的に、かなり好きな作品です。好きなアニメ10本挙げろ、と言われたら必ずランクインしますし、おすすめ作品5本教えて、と言われたらいつも混ぜ込んでいます。

モノが増えるのが嫌なので、円盤はあまり買わないのですが、本作は例外でBlu-ray BOX(2011年発売)を買ってしまいました。初回限定特典についていたヴァンシップのペーパークラフトは、今でも組み立てずに大事に取ってあります。

まあでも、これは私が特別変わっているということでもなく、ファンは結構いる作品なんじゃないかと思います。

GONZOの10周年記念作品ということもあって、力が入っているのは見てすぐにわかりますからね。

特に良いのが、映像ですね。これについては、現代でも十分戦える作品、と私は思っています。
思っていますが、さすがに20年以上前の作品なので声高に主張する勇気はありません。

放送していたのは、SD画質が当たり前の時代ですしね…

本作のファンが少なくないんじゃいないかというのは、続編が制作されたことからもわかるんじゃないかと思います。

LAST EXILE-銀翼のファム-』が、続編として8年後の2011年に放送されました。

そちらも記事にしているので、『銀翼のファム』をまだ見ていないという方は是非ご一読ください(本作のネタバレを含んでいますので、本作をまだ見ていないという方は先に『LAST EXILE』を見ていただいた方がいいと思います)

『LAST EXILE』概要

LAST EXILE』は、架空の星「プレステール」を舞台とした物語です。

プレステールにはアナトレーとデュシスという2つの国家が存在しており、両国は戦争状態にあります。

主人公のクラウス・ヴァルカは、アナトレーに住んでいるヴァンシップ乗りの少年です。ヴァンシップというのは本作に登場する複座の小型飛空艇。クラウスがパイロットを担当しており、ナビはクラウスの幼馴染ラヴィ・ヘッドが担っています。

二人はまだ15歳ですが、両親がいないためヴァンシップを使った運び屋として生計を立てています。

運び屋自体は、特にヤバい仕事というわけではありません。個人の宅配業者のようなもので、彼らの他にも、同じ仕事をしているヴァンシップ乗りはたくさんいます。

ただ、では危険に巻き込まれることがまったくないかというと、そういうわけでもないのですね。

アルヴィス・E・ハミルトンという少女を、アナトレーの戦艦シルヴァーナへ届けてほしい」

二人があるきっかけで請け負うことになった仕事も、そんな危険な匂いを感じさせるものの一つでした。

それまで、戦争とは無縁のところにいたクラウスとラヴィ。でもこの依頼をきっかけに、プレステールの根幹を揺るがす大きな流れに巻き込まれていくことになります。

『LAST EXILE』レビュー

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冒頭でも紹介した通り、『LAST EXILE』は個人的にはすごく好きな作品です。好きな作品なのですが、その魅力を言葉で表そうとすると難しく、沈思黙考の果てに「雰囲気」とか言ってしまいそうになります。

いや、それも決して間違いというわけではありません。大人が静かにお酒を楽しむ、老舗のバーみたいな雰囲気があるのは確かだからです。

気品、と言い換えてもいいかもしれません。

そしてそれは、映像、音楽、キャラクター、世界観といった作品を構成する複数の要素がうまく嚙み合うことによって作り出されているように思います。

光を抑えた映像

冒頭でも紹介した通り、『LAST EXILE』は映像の美しさが特徴の作品です。

細部まで描き込まれている、というのがそう感じさせる理由の一つ。でもそれ以上に目立つのが、明るさを抑えている、という点です。

LAST EXILE』は飛空艇(ヴァンシップ)乗りの物語です。当然空を飛ぶ場面は何度も出てきますが、そうした場合でも強めの光は使われません。それは別に曇りの日にばかり空を飛んでいるから、とかではありません。

光を控えめにして、画面を意図的に暗くしているのです。

さらに、全体に薄い膜をかけたような画面も多用されます。これも光を抑制する効果の一つですね。

そうして生み出されるのが、間接照明に照らされた室内の雰囲気です。

おしゃれなバーとか、気品とか言いたくなるのはこれが理由で、そういった場所と似た雰囲気が『LAST EXILE』の映像からは感じられます。

もちろん、それが許される精緻な作画があるからこそなんですけどね。並の作品でこれをやってしまうと、ただ見にくいだけの作品ができあがるように思います。

ヴァンシップのデザイン

LAST EXILE』における飛行機は現実とは違い、化石燃料を利用した内燃機関ではなく、「クラウディア機関」という装置によって浮力を得ています。

そのせいもあってか、ヴァンシップのデザインも現実のものとは異なっています。翼がなく、流線形のボディが強調されたよりシンプルな形になっているのですが、これがまた美しい。

ヴァンシップは3DCGを使って描かれているのですが、2003年のCGなので、現代のセルルック3DCGと比較するとさすがに「CGでござる」という感じは抜けていません。でも本作の場合、それがかえって無機物であるヴァンシップの質感を出す効果につながっています。

このヴァンシップの美しさも、『LAST EXILE』から気品を感じる理由の一つと言っていいでしょう。

また、飛行シーンにおける疾走感は『LAST EXILE』という作品の見どころにもなっています。

音楽が良すぎてOPとEDのスキップなんてありえない

「タイパ」が重視される時代ですから、アニメは本編だけ見れば十分、OPはスキップ、EDも省略という方も少なくないのかもしれません。

一般論としてそれを是とするか非とするかはさておき、本作についてのみ語るとすると、個人的にはそういった視聴の仕方はまったくおすすめしません。

LAST EXILE』は、OP、EDどちらも非常に良いからです。

『LAST EXILE』のOPとED
  • OP「Cloud Age Symphony」OKINO,SHUNTARO
  • ED「Over The Sky」Hitomi

疾走感のあるOPは物語世界に没入するための助走になりますし、ウィスパー・ボイスが印象的な静かなEDは、ひとつのエピソードを見終わって熱を帯びた心をクールダウンしてくれるからです。

OKINO,SHUNTARO(沖野俊太郎)はアニメにあまり楽曲は提供していないようで、他の作品で思いつくところと言えば『ガン×ソード』くらいでしょうか。EDの「A Rising Tide」がそうですが、こちらも『LAST EXILE』のOP「Cloud Age Symphony」に通じる非常に洒落た雰囲気を持った曲でした。

OP映像はこちらで見ることができるので、気になった方はチェックしてみてください。動画のタイトルは「PV1」になっていますが、中身はノンクレジットOPです。

Hitomi(黒石ひとみ)は、アニメへの楽曲提供はそれなりにありますね。ご存知の方も少なくないんじゃないでしょうか。沖野俊太郎同様、『ガン×ソード』への楽曲提供もありますし、『プラネテス』や『コードギアス 反逆のルルーシュ』といった知名度の高い作品への参加もあります。

黒石ひとみの曲と言えば、先ほども書いた通り特徴的なウィスパー・ボイス。私はこの『LAST EXILE』のED「Over The Sky」で初めて知ったのですが、その声と曲にすっかりはまってしまいCDも買ってしまいました。

Angel Feather Voice』と『Angel Feather Voice 2』というアルバムに、『LAST EXILE』を含めてアニメ作品に提供した曲がたくさん収録されていますので、気に入った方はぜひ聞いてみてください。

黒石ひとみはEDだけでなく、Dolce Triadeのメンバーとして音楽も担当しています。

この音楽も、『LAST EXILE』という作品が醸し出す「お洒落なバー的な品の良さ」に一役買っていると思います。

「原案」再現度の高いキャラクター

アニメ作品の最重要項目の一つが、キャラクター。もちろん『LAST EXILE』は、キャラクターもよいです。

特に良いのが、ヴィジュアル面です。村田蓮爾が原案を担当したキャラクターの再現度が、非常に高い。

村田蓮爾の描くキャラクターには、独特の雰囲気があります。これも画集か何かで見ていただければわかると思うのですが、一目でわかる違いがある。重厚感がある、とでも言えばいいでしょうか。

すごく魅力的なのですが、アニメになるとその魅力が半減しまうケースも少なくないです。「重み」があまり感じられなくなってしまうんですよね。

これはキャラクターデザインだけでなく、作画の質とかにも関係してくる話なのかもしれません。ただ、『LAST EXILE』についていうと、その部分はかなり残っているように感じられました。

村田蓮爾が関わった他の作品も見たのですが、そのキャラクターの魅力を表現できている作品として本作はトップ3に入ると思います。

そしてまた、このヴィジュアル面でのキャラクターの重厚感みたいなものも、作品の気品につながっているように感じるんですよね。

活発で繊細なラヴィの魅力

LAST EXILE』には、主人公クラウスを筆頭に、シルヴァーナ艦長アレックス・ロウ、同副長ソフィア・フォレスター、クラウスに強い興味を示すディーオ・エラクレア、ディーオの姉で怪しい美貌と傲慢さの持ち主であるデルフィーネといった、魅力的な登場人物が多く登場します。

その中でも個人的な一推しは、クラウスの幼馴染で相棒でもあるラヴィ・ヘッドです。

ラヴィは、のんびり屋で穏やかな性格のクラウスとは正反対と言っていい性格の持ち主です。

元気でしっかり者、クラウスを引っ張る存在で、その威勢の良さには惚れ惚れさせられます。彼女の存在は、作品の活力源になっていると言ってもいいでしょう。ラヴィ役の斎藤千和の演技が秀逸です。

しかし一方で、ラヴィは声が大きく元気だけが取り柄のガサツな女性、というわけでもありません。実は繊細なところも持ち合わせていて、一人で前に進もうとするクラウスとの関係において、そうした側面も強く現れてくることになります。

彼女自身は、物語に気品を与える存在ではないかもしれません。

しかしラヴィはラヴィだけで、『LAST EXILE』という作品の大きな魅力となっています。

戦闘シーン

戦いの場面からも、気品を感じることができます。というのも、『LAST EXILE』はスチームパンクに属する作品で、その戦い方には19世紀の海戦の香りが残っているからです。

実際には、『LAST EXILE』で行われるのは空の戦いです。ヴァンシップや戦艦を駆使して戦うのですが、そこにミサイルやレーザーといった現代的な高性能兵器はほぼ登場しません。使われるのは、主に機銃や大砲です。

それどころか、これは本作を見ていてちょっと謎に感じたところでもあるのですが、戦艦同士がすれ違う際、互いに側面を開いて、中に並んだ歩兵が撃ち合うというよくわからない決戦場面も登場します。

これ自体の意味はともかくとして、『LAST EXILE』における戦いには、騎士道精神みたいなものが残っているように感じられるのですね。

かつての英国の首相ウィンストン・チャーチルは、第一次世界大戦を振り返った手記の中で「戦争からきらめきと魔術的な美がついに奪い取られてしまった」と書いていますが、そのきらめきと魔術的な美が残っていた時代を思わせるのが、『LAST EXILE』と言ってもいいかもしれません。

そうした部分もまた、本作から気品を感じる一要素になっているんじゃないかと思います。

『LAST EXILE』まとめ

色々と書いてきましたが、『LAST EXILE』は個人的にかなりおすすめな作品なので、まだ見たことのない方は是非一度見てみてください。

dアニメストアでもU-NEXTでも、DMMTVでも見放題で配信があると思います。多分。

20年以上前の作品だから、とかいう敬遠はやめましょう。古さを感じることを否定はしませんが、2003年としてはかなり映像がいい方でしたし、見てられない、ということはないと思います。

本作が気に入ったら続編も、と言いたいところですが、冒頭でも紹介した正統な続編にあたる『LAST EXILE-銀翼のファム-』(2011年)は、少々印象が違ったものになっています。

世界観は共通していますし、本作のキャラクターも登場しますので、興味のある方はチェックしてみてください。

銀翼のファム』の他に、コミカライズで『LAST EXILE-砂時計の旅人-』という作品もあります。こちらは『LAST EXILE』の後日談で、時系列としては『銀翼のファム』よりも前。

LAST EXILE』でキャラクターデザインを担当したムラオミノルが書いた漫画なので、絵柄はアニメそのままですし、クラウスやラヴィといった主要登場人物たちもそのままの姿で登場します。

『砂時計の旅人』を読んでいなくても、『銀翼のファム』の視聴に問題はないです。でも、『LAST EXILE』の雰囲気をもう少し味わいたいなら、『砂時計の旅人』を読んでみるのはアリだと思いますね。

タイトル『LAST EXILE』
放送・公開2003年4月7日 -2003年9月29日
放送局テレビ東京ほか
話数全26話
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この記事を書いた人

アニメとサッカーを見るのが好き。
累計視聴数は400本を超えていて、今も増え続けています。

作品を見て、感じたこと、考えたことを書いています。