『ガン×ソード』感想・レビュー|娯楽要素がたっぷり盛り込まれた復讐劇

ガン×ソード
AIC A.S.T.A. 2005
監督:谷口悟朗
脚本:倉田英之
キャラクターデザイン:木村貴宏

イメージリーダー:まさひろ山根
音楽:中川幸太郎
キャスト:星野貴紀・桑島法子・井上喜久子・保志総一朗・櫻井孝宏

「俺は童貞だ!」

ギャグアニメや思春期のもやもやを描いた作品を除くと、主人公が自らの性体験について、これほど堂々と語る作品もそう多くないのではないかと思います。

本作と同じ谷口悟朗監督・倉田英之脚本の作品で『純潔のマリア』(2015)がありますが、あちらは宗教を描いた作品でした。

そのため主人公マリアの「純潔」にそれなりに意味がありましたし、だからこそタイトルにも採用されていたのだろうと思います。

一方、『ガン×ソード』の場合はそうではありません。主人公ヴァンの貞操は、そんなに重要ではないのですね。

そもそも、ヴァンが本当に童貞なのかどうかにも、怪しいところがあります。というのも彼には、エレナという女性と結婚寸前まで漕ぎつけた、という過去があるからです。

もちろん、ヴァンとエレナが結婚まで純潔を守ることを誓い合っていた可能性もなくはないですが…… 

真相は物語の中でも明かされていないのでよくわかりません。それに繰り返しになりますが、そのこと自体はそんなに重要ではない。

それよりも注目すべきは、ヴァンが結局エレナとは結婚できなかった、という事実の方です。

ヴァンとエレナの関係が、結婚を前に破綻してしまったからではありません。二人は結婚式を挙げようとしていたくらいですから、その関係はむしろ順調と言っていいものだったはずです。

しかし、悲劇は式の当日に起こりました。

エレナが、殺害されてしまったのです。

犯人は「右腕がカギ爪の男」でした。

その場に居合わせ、重傷を負いながらも一命を取り留めたヴァンは、復讐を誓ってカギ爪の男を追う旅に出ます。

つまり本作は、「婚約者を殺されたヴァンの、カギ爪の男に対する復讐劇」ということになります。

物語をけん引する「カギ爪の男」の不思議

ガン×ソード』は、カギ爪の男を追って旅をしているヴァンが、たまたま立ち寄った「エヴァーグリーン」という町で、ヒロインであるウェンディ・ギャレットと出会うところから始まります。

ウェンディもまた、ヴァン同様カギ爪の男には因縁があります。というのも彼女の兄ミハエルは、カギ爪によってさらわれてしまったのです。

兄を取り戻すため、ウェンディはヴァンの旅に同行することになります。

目的がはっきり示されない

殺人だけでなく、別の場所で誘拐までしているカギ爪の男。

これだけ聞くと、ただの悪人としか思えません。

しかし実際のところ、カギ爪の男がどのような人間で、どんな目的で犯罪行為を重ねているのかは、物語前半でははっきりと示されてはいません。

わかっているのは、右手がカギ爪である、という、わかりやすい特徴のみ。

そのため、序盤はこの部分がミステリ要素となって物語を引っ張ります。そして話がもう少し進むと、さらに不思議なことが見えてきます。

カギ爪の男には、どうやら「信者」がたくさんいるらしいのです。

カギ爪の男に賛同する人々

実際には、カギ爪の男は宗教家ではないですし、「信者」という言葉が作品の中で使用されているわけではありません。

しかし、カギ爪の男を取り巻く人間たちは、それに似た存在と言っていいと思います。信奉者たちがカギ爪の男を呼ぶ「同志」という言葉からも、ある種の宗教性みたいなものが感じられます。

カギ爪の男は、誘拐や殺人までする紛れもない犯罪者です。ヴァンやウェンディからすると、極悪人以外の何者でもない。

そんな人間に、なぜ信奉者が存在するのか。

これもまた、物語前半では明らかにされない謎です。

カギ爪の男には、ヴァンやウェンディの話だけではわからない、不思議なところがあるようなのですね。

そしてこのカギ爪の男の不思議が、『ガン×ソード』という物語をけん引していきます。

ウェンディの成長

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ガン×ソード』は、基本的には婚約者を殺害されたヴァンの復讐劇です。

でも、それだけではありません。

本作には、もう一つウェンディの成長という重要な要素も含まれているからです。

ガン×ソード』の主要登場人物は、大半が成人です。そんな中でウェンディははっきりと未成年であり、それも十代前半のように見えるため、「お子様扱い」されてしまうこともしばしばあります。

ウェンディ自身はそれに反発し、「子ども扱いしないで」と言い返すこともあるのですが、それが一層子どもっぽさを引き立ててしまったりするのですね。

そんなウェンディですが、ヴァンとともに色々な街を訪れ、たくさんの人たちと出会うことで経験を積んでいきます。

物語中盤で発生するある出来事はウェンディに大きな衝撃を与え、旅の目的を見失いかねないところまで追いつめられるのですが、それでも彼女はめげません。

元々芯が強く、しっかりした性格のキャラクターではあるのですが、ヴァンたちとの旅を通して、それに磨きがかかったような印象を与えてくれます。

特に彼女の成長が感じられるのは、兄ミハエルに対する態度の変化でしょう。さらわれた兄を一心に追いかけるだけだった序盤から、中盤での出来事を通して、その姿勢は大きく変わっていきます。

ヴァンは成長しない

実は『ガン×ソード』という作品では、主人公ヴァンはほとんど成長しません。

もちろん、まったく変化しないというわけではないのですが、少なくとも内面とか、人間的な部分では変わらない。

そしてその部分を補っているのが、ヒロインであるウェンディの成長であるようにも思えます。

ダンの操縦技術は向上する

ガン×ソード』にはロボットアクションの側面もあり、ヴァンたちは「ヨロイ」と呼ばれる人型のロボットに搭乗して戦います(一部、人型ではないヨロイも存在します)。

ヴァンの搭乗機は「ダン・オブ・サーズデイ」。他の大多数のヨロイとは違う特別性で、かなりの高性能機でもあります。

ただ、物語中盤までのヴァンは、この機体の性能を十分に生かし切れていないのですね。

カギ爪の男の仲間たちの中には、ダンと同じ「オリジナル7」と呼ばれるヨロイを使う者たちがいるのですが、彼らとの戦いを通して、ヴァンはダンの性能を引き出す術を身に付けていきます。

この点は、ヴァンの変化と言っていいでしょう。

技術の向上ですから、成長と呼ぶこともできるかもしれません。

ヴァンにとって重要なのは「変わらないこと」

しかし一方で、精神面や人間的な部分においてヴァンの成長はありません。

彼の頭には、「カギ爪の男への復讐」しかないからです。

「復讐なんて、何も生まない、何も残らない空しい行為だ。やるべきではない」

そんな他人事のような助言は、ヴァンの心にまったく届きません。

また、カギ爪の男の目的がどれだけ多くの人の心を震わす、崇高なものであったとしても、ヴァンにはまったく関係がありません。

あくまで、初志貫徹。ヴァンの目的はカギ爪の男への復讐で、その点はまったく揺らがないし、変わりもしない。

そしてこの愚直と言ってもいいくらいの一貫性があるからこそ、本作は様々な要素を盛り込んでいながらも、「復讐劇」という軸をぶらさずにいられるのだと思います。

「一貫して変わらない」ということが、ヴァンにとっても、そして物語にとっても重要、というわけですね。

ヴァンは、変化してはいけないのです。

しかし変化がなければ、成長もない。そのためそこを補っていたのが、ウェンディの成長だったのだろうと思います。

復讐劇だが、エンターテインメント性がかなり強い

しつこいようですが、『ガン×ソード』は婚約者エレナを殺害されたヴァンの、カギ爪の男に対する復讐劇です。

ただ、では復讐という重苦しさを伴う言葉がそのまま生かされている話なのかというと、まったく違います。

むしろ軽快さすら感じるくらいで、エンターテインメント性がかなり強い、というのが『ガン×ソード』の特徴でもあります。

わかりやすいところでは、ネーミングがあるでしょう。

物語の舞台が惑星「エンドレス・イリュージョン」というのもその一つですし、幸運にこだわる悪役の名前が「ラッキー・ザ・ルーレット」だったり、あっさりやられてしまう、わかりやすい雑魚キャラクターが「ザコタ・メタコタ」だったりといったところに遊び心を感じます。

水着王国ミズーギィというのもそうですね。ヴァンたちが訪れる町(国?)の一つで、その名の通り水着着用が必須、しかも入れるのは女性限定という場所で、このエピソードはいわゆる水着回でもありました。

普段は脱力気味のヴァン

このようなエンターテインメント性が許容可能なのは、ヴァンというキャラクターが備えた個性に理由があるように思います。

彼は言うまでもなく復讐の当事者ではあるのですが、普段から眉間にしわを寄せて深刻な空気をまとい、他人を寄せ付けない雰囲気を醸し出しているわけではありません。

実際はその逆で、脱力しているような状態の方が多いです。

そのため、彼が復讐のために旅をしているのだ、ということを忘れそうになることすらあります。

もちろん、ヴァン自身がそれを忘れることはなく、カギ爪の男が話題に上ったときに表情がきつくはなります。ですが、それ以外の場面ではコミカルに見えてしまうことも少なくない。

冒頭で紹介した「童貞宣言」もそうですが、

  • 生活力が皆無で、行き倒れることもある
  • 普通の人はしない、極端な食事の癖がある
  • 妙なところで敬語を使う

など、ハードボイルド風の外見と違って、間の抜けたようなところが多々見られます。

そしてこの主人公ヴァンの脱力した部分があるからこそ、『ガン×ソード』という作品では「復讐と娯楽」という本来相反する要素が、うまく融合しているのだと思います。

また、それが作品の大きな魅力にもなっています。

『ガン×ソード』の音楽

EDを沖野俊太郎黒石ひとみが歌っているのが、印象的でした。

この2人は『LAST EXILE』(2003) でもOPとEDを担当していて、どちらも良い曲でした。作品の雰囲気によく合っており、美しい作品をさらに引き立たせていたと思います。

ガン×ソード』では、メインのEDテーマが沖野の「A Rising Tide」であり、黒石の「Paradiso」がEDとして使用されているのは2話分だけだったのですが、挿入歌として使われていることもあって、「Paradiso」もとても耳に残りました。

黒石は他に挿入歌も歌っているのですが、こちらもよかったですね。

OPは、作品の音楽を担当している中川幸太郎でした。こちらは鬼太鼓座が参加しており、「和」が感じられるものとなっています。

タイトルガン×ソード
放送2005年7月4日-2005年12月26日
放送局テレビ東京系列
話数全26話
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この記事を書いた人

アニメとサッカーを見るのが好き。
累計視聴数は400本を超えていて、今も増え続けています。

作品を見て、感じたこと、考えたことを書いています。